表象文化論学会第13回研究発表集会プログラム発表

 11/10に山形大学で行われる表象文化論学会第13回研究発表集会のプログラムが発表されました。私は今回、初めて企画委員長及び理事になったので緊張しています。午後の「ナラティヴの部屋」で司会もします。どうぞお気軽にお越し下さい。

第13回研究発表集会プログラム | Conventions | 表象文化論学会

戦士を放ってはおけない~『500ページの夢の束』(ネタバレあり)

 『500ページの夢の束』を見てきた。

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 主人公である自閉症若い女性ウェンディ(ダコタ・ファニング)は『スター・トレック』の大ファンで、脚本コンテストに応募すべく、とっておきの『スター・トレック』台本を仕上げていた…が、さまざまなトラブルで台本が期日前に発送できず、直接台本を持ってハリウッドに向かうことにする。初めての旅で、さまざまなトラブルが発生するが…

 

 ウェンディはグループホームに住んでいるのだが、職員であるスコッティ(トニ・コレット)の支援もあり、シナボン売店でバイトもしているし、趣味の活動もしっかりやっていて、かなり自立して生活している。そのバイトでためたお金で思い切ってハリウッドまで行こうとするわけだが、なんと一緒にホームの飼い犬であるピートがついてきてしまったせいでバスの中でトラブルが発生して降ろされ、その後泥棒にあうやら事故にあうやら、いろいろ大変なめにあってしまう。このあたりの過程が丁寧に描かれていて、そんなに凝った話ではないのだが好感が持てる。

 

 『スター・トレック』ネタが、イヤミのない感じでかなりふんだんに盛り込まれているところも良かった。スコッティはまったくSFに関心がないため、『スター・トレック』と『スター・ウォーズ』を混同して、息子のサム(リヴァー・アレクサンダー)に怒られたりする。終盤で警官のフランク(パットン・オズワルド)が、ウェンディを助けようと「戦士」同士としてクリンゴン語で話しかけるところはすごく面白い。また、なぜウェンディはこんなに『スター・トレック』に夢中なのかということで、感情を持て余し気味なスポックに対してウェンディがたぶん親近感を抱いているから…という理由が提示されているところもとても良かったと思う。

 

 いくつか台本に疑問なところはある。たとえば、終盤でウェンディを助けてくれる老人ホームのおばあちゃんがその後、出てこなくなってしまうところはちょっと尻切れトンボだと思う。あと、ウェンディがシナボンの店で販売を含んだバイトをしているところはけっこう大変そうだと思った…というか、ウェンディみたいな人がシナボンの店で働くなら、調理や皿洗い、清掃を仕事にしたほうがいいんじゃないかと思った(私は我ながらかなり社交性が低いと思うのだが、一度飲食店の接客バイトをやってあまりにつらくて全く続かなかったことがあった)。とくにウェンディみたいな可愛い子が接客していると、変な男の人にイヤなこと言われるかもしれないし…いやまあ、ウェンディは私より社交性があるってことなのかもしれないが…

 

 なお、この映画はベクデル・テストは完全にパスするというか、ほとんど女性同士の会話で、内容もウェンディの仕事とか生活のことばかりである。さらにこれ、逆ベクデルをパスしない。逆ベクデル・テストは、男性が二人以上出てきて、お互いに話して、女性以外のトピックについて話すところがあるか、というのを基準としているのだが、この映画ではそもそも二人以上の男性が女性がいないところで話す場面がないのである。逆ベクデルをパスしないのは『ゴーストバスターズ』のリブートとかだが、けっこう珍しい。

バケモノがバケモノとして出てくる芝居~『ゲゲゲの先生へ』

 前川知大作・演出『ゲゲゲの先生へ』を見てきた。タイトルからわかるように、水木しげるへのオマージュ的な作品である。

 

 主人公はどうもねずみ男っぽい、半分人間、半分妖怪の根津(佐々木蔵之介)という男である。この詐欺師風な男が半分妖怪になった顛末が語られる一方、男のところに逃げてきた若い妊婦である要(水上京香)とその恋人である忠(水田航生)の話も進行する。

 

 なんともいえないのらりくらりとした根津と、歴戦の妖怪で神であるおばば(白石加代子)や花子(松雪泰子)のやりとりを見ているだけで面白いし、また半透明の木がそびえ立つ森にボロい和風の部屋があるというセットも雰囲気があって良い。ただ、街では子供が生まれなくなっているというのに要は妊娠しているという『トゥモロー・ワールド』風のSF展開は必要なのかな…という気もした。しかし『太陽』でも夜型人間は子供が作れないという話があったのだが、前川知大は何か生殖不可能性というテーマにすごいこだわっているのだろうか。

 

 あと、なんだか見ているうちに「この芝居はバケモノがただバケモノとして出てくるリアリズムの演劇なんじゃないか」という感情が湧き起こってきてしまった。なんてったって役者はバケモノだと言われている。さらに、佐々木蔵之介白石加代子をはじめとして、バケモノの中でもとくにバケモノ度が高い役者陣を揃えている。私は佐々木蔵之介のお芝居を数回観たことがあるが、その中でふつうの人間だと思える役はひとつもなかったように思うし、白石加代子は出てきただけでバケモノだ。そういう意味では、なんか芝居でバケモノを出すというのはちょっと難しいのかも…という気がした。素でバケモノである人たちがバケモノを演じても、あまり意外性とか幻想味は無いような気がするからである。

MIDWEEK BURLESQUE vol.62 -Monster Night Out!-

 「MIDWEEK BURLESQUE vol.62 -Monster Night Out!-」を見てきた。ハロウィーンがテーマで、ボーイレスクが多い回だった。

 最初はにしだっくすのサラリーマン名刺交換ショーで、サラリーマンフェティシズムを感じた(!?)。次はKatieの全身を覆ったアンデッド007の演目で、これはたいへんハロウィンらしくて良かった。YUTAROの料理人のショーは、良かったのだがせっかくフライパンを持って出るのならば、フライパンでどこかを隠す振付があるとなお良いと思う。一部の最後はMummy Bombの「女のみち」からパンクバージョンの「マイ・ウェイ」、それから「傷だらけのローラ」(フランス語版だと思うんだけど、これフランス語の歌詞があったの!?)でしめる昭和感溢れるショーだった。

 後半、BIT WIENの白鳥の湖のショーは、見たのはこれで3回目だがだんだんうまくなっている気がする。Lune Glitterの海女のショー(『あまちゃん』ネタもある!)も面白かったが、あそこまでやるならパンツにも真珠をつけてもいいのではと思った。Violet Evaのグリーンの大きなヴェールを広げて舞うダンスは大変綺麗だった。

連載記事「性差別?フェミニズム?恋する人間はみんなバカ?~『コジ・ファン・トゥッテ』の一筋縄ではいかない世界」が公開されました

 wezzyの連載記事「性差別?フェミニズム?恋する人間はみんなバカ?~『コジ・ファン・トゥッテ』の一筋縄ではいかない世界」が公開されました。よく性差別的だと言われる一方、フェミニズム的だとも言われるモーツァルトのオペラ『コジ・ファン・トゥッテ』についてです。

 

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東急シアターオーブ、マシュー・ボーン『シンデレラ』

 マシュー・ボーン版『シンデレラ』を見てきた。プロコフィエフの音楽を使いつつ、設定を第二次世界大戦にして、シンデレラと王子さまをロンドン空襲で引き裂かれる男女にしたバージョンである。

 

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 これは2010年の再演をイギリスで見ていて、かなり面白いと思ったのだが、今回も大枠は同じだが少しだけ演出などに変更があったらしい。ダンサー(私が見た回はアシュリー・ショーがシンデレラだった)やの使い方を変えたことに伴うものなのかもしれないが、前回見た時よりも、リアリティよりは夢幻的な雰囲気を醸し出したり、心を揺さぶるような強い感情を表したりするほうに重点を置いて、それを踊りで表現しようとしているような気がする。あと、上演時期の違いも大きいのかもしれず、前回見た時はクリスマスシーズンで、楽しくお祭り気分で劇場を出てきたのだが、今回は終盤の再会場面などがかなり涙を誘うものになっていて、むしろしんみりしてしまった。