The Shows Must Go Onが配信しているShakespeare's Sonnetsを見た。基本的にはソネット集をいろんな役者が読むだけなのだが、パトリック・スチュアート、フィオナ・ショー、キム・キャトラル、デイヴィッド・テナントなど、かなり豪華な面々が読んでいる。ひとりで全部ソネットを読む企画をやっていたスチュワートや、シェイクスピアについてはベテランのテナントは安心の実力なのだが、個人的には最近『ハムレット』もやったルース・ネッガが美声で大変良かった。
綺麗な演目だが…『M』(配信)
東京バレエ団の『M』を配信で見た。三島由紀夫をテーマにモーリス・ベジャールが作ったバレエ作品である。三島の没後50周年記念に東京文化会館で10月に上演されたものの映像である。
直線的に三島の人生を描いているわけではなく、子どもの頃の三島と思われる少年と、その分身と思われるイチ、ニ、サン、シという4人の男を中心に、三島の人生のいろいろな断面や作品、よく出てくるモチーフなどを表現したものである。和風のセットや音楽が出てきたかと思うとエリック・サティなどフランス系のクラシック音楽などを使った洒脱で西洋風な場面になったり、三島のいろいろな側面を表そうとしている。
全体的に非常に美しく、踊りも美術も衣装もよく考え抜かれた作品なのだが、一方で三島世界というのはこんなにキレイなだけでいいのかなと思うところもある。三島の世界というのは変なブラックユーモアとか非常に俗っぽくしょうもないみじめな感情とかもたくさん存在するものだと思うのだが、こういう緊密なバレエというのは美しすぎてあまりしょうもないことやドタバタした面白おかしさのようなものは表現しにくいのではと思う。とくに最後、桜の花の舞い散る中で少年が自害するという展開になるのだが、直接的に見せないかなり抑えた表現ではあるものの、子どもの純粋さを通して自殺を美化しすぎなのではという気もした。
ホラーっぽいソネットの翻案~新国立劇場『Shakespeare THE SONNETS』
新国立劇場で『Shakespeare THE SONNETS』を見てきた。シェイクスピアのソネットを中心に『ロミオとジュリエット』とか『オセロー』とか、いろいろな作品を加味しながら作ったバレエ演目である。私が見た回のダンサーは渡邊峻郁と小野絢子だった。
全体的に詩人のいろいろな(ややとりとめもなく移り変わることもある)詩的想像と夢を表現しているような演目である。左側に机、奥にキャンドルのある鏡台が置かれたセットで、照明が大変凝っている。全体にわりと暗い舞台なのだが、場面ごとに照明が線になったり影になったりしてさまざまな表情や発想の区切りを表現しており、ダンスに非常によくあっている。もとのソネットよりも全体的にちょっとホラーっぽい演目で、第二場は黒の美しさに関するソネットから始まり、シェイクスピア劇の中でも『オセロー』とか『ヴェニスの商人』とか、なかなか禍々しい芝居のモチーフが現れてけっこう不穏な雰囲気になっている。最後の第三場は結婚と生殖をすすめるソネットから始まるのだが、子宝繁栄を願うソネット集の雰囲気からどんどん離れて、ドッペルゲンガーみたいな不気味な悪夢っぽいダンスに発展していく。
パイプ椅子とゴミ~カクシンハン『ロミオとジュリエット』(配信)
カクシンハン『ロミオとジュリエット』を配信で見た。3人のキャスト(柳本璃音、根本啓司、大山大輔)と三味線の生演奏(鶴澤寛也)だけの少ないメンバーで無観客で上演するものである。
セットは積み上げたパイプ椅子で弧のように囲った舞台にゴミみたいな紙くずがたくさん散らばっているというものだ。新聞紙を使うゴミっぽいセットといい、60分という短い尺といい、若い2人に深みのある声で大人を演じる大山大輔を対置するやり方といい、全体的に去年のギャラリー・ルデコでやった『ロミオとジュリエット』を配信に最適化した形で演出し直し、カクシンハン・スタジオ版『ロミオとジュリエット』で目立っていたような若々しい感じを少し加味したようなプロダクションである。去年よりもさらに道具類を減らしてシンプルにし、カメラで撮影しやすいようにしていると思われる。ただ、キャストのせいで印象がわりと違うところがあり、とくに柳本璃音のジュリエットがかなりボーイッシュで、ジュリエットというよりはロザリンドとかヴァイオラみたいな颯爽とした若い女性である。最初は無邪気でちょっと子どもっぽかったジュリエットが、だんだん大人になっていくあたりの変化が強調されている。
初めての試みとしては撮影は悪くないほうだが、音ズレがかなりあるのがあまりよくない。三味線の生演奏がかなりドラマティックに効いているので、この音ズレは残念である。音ズレさえ解消できれば、有料でアーカイヴ配信にしてもいいのではと思った。