「QUEEN 50周年展 -DON'T STOP ME NOW-」

 渋谷の西武でやっている「QUEEN 50周年展 -DON'T STOP ME NOW-」を見てきた。

queen-exhibition.jp

 歌詞の原稿とか衣装とか写真、映像資料などいろいろなものが来ていて展示じたいはわりと充実している。ただ、わりと狭い通路で映像を上映していたりして少しごちゃごちゃした感じはあると思った。あと、最後のライヴ動画ブースは両脇の照明はとったほうがいいと思う。ライヴ動画はライヴを直接見るわけではないので、ライヴっぽい分いい気を出すよりは見えやすい環境にしてほしいと思った(なお、ライヴ動画ブースは前にロンドンのサーチ・ギャラリーで見たローリング・ストーンズ展が抜きん出て高クオリティだったのだが、さすがにあのレベルは百貨店の展示室ではきついだろうなーとは思う)。

f:id:saebou:20211123223307j:plain

ロジャーのドラムセット展示。

 

「All That Burlesque オンライン配信 vol.6」

 「All That Burlesque オンライン配信 vol.6」を配信で見た。

t.livepocket.jp

 Kaji、naspy&キャラバンキョウコ、Stella varo Balloon、バーバラ村田、Tuna Mermaid、NINA GALAXYが出演しているものである。Kajiは初めて見たのだが、ずいぶん運動神経の良いパフォーマーだと思ったら、ふだんは西口プロレスでプロレスをしているそうだ。naspy&キャラバンキョウコは生歌つきでいきなり般若のお面が出てきてびっくりしたのだが、ただふつうと違って歌手も舞台にいるせいか、たまに映像があんまりダンスに追いついてないのか見えづらいところがあったのが残念だ。Stella varo Balloonはちょっとオリエンタルな衣装を使った華やかなショーである。村田バーバラはバーレスクではなくパントマイムなのだが、脱いでいないのにバーレスクがテーマとわかるマイムでなかなか斬新だし、最後にまたひとひねりあって面白かった(ちょっとロビー・ウィリアムズの"Rock DJ"を思い出した)。Tuna Mermaidはボン・ジョヴィの「禁じられた愛」のジャズ風カバーにヴィクトリア朝っぽい衣装で、サラ・ウォーターズの『荊の城』をモチーフにしたショーである。ショーの最後のインタビュー解説ビデオにちょっとしたジョークも仕込んである。NINA GALAXYは私の好きなクリスティーナ・アギレラの"Fighter"にあわせてリップシンクするところから始まるというものだった。司会の解説にもあったが、全体的に歌ものが多いプログラムだった。

朝日カルチャーで3/12に『じゃじゃ馬ならし』の講座を行います

 2022年3月12日(土)の19時より朝日カルチャーのオンラインシェイクスピア講座として「イマドキ『じゃじゃ馬ならし』なんて何が面白いの?:シェイクスピア屈指の問題作を考える」を行います。『じゃじゃ馬ならし』の翻案である『ヒース・レジャーの恋のからさわぎ』やアン・タイラーによる小説『ヴィネガー・ガール』などについてお話する予定です。

www.asahiculture.jp

 今週末の27日(土)19時からは同じ朝日カルチャーで「批評の教室 ――チョウのように読み、ハチのように書く出版記念オンライン講座」も行います。オンラインでアーカイブもあります。できるだけ受講者の方々から質問を受け付けられるようにしようと思っています。お気軽にご参加ください。

www.asahiculture.jp

wezzyオンラインイベントが無事終わりました

 いつも連載をしているwezzyで行った新刊刊行記念オンラインイベント「北村紗衣×飯島弘規オンライントークイベント「『批評の教室』 ホームカミングデー~実践と裏話」」が無事終わりました。お越しくださった方々、どうもありがとうございます。『スパイダーマン:ホームカミング』を題材にみんなでネットワーキング図を作るなど、ちょっとゼミっぽいことをしました。

wezz-y.com

ちょっとイマイチ全体のバランスが…『アンテベラム』(ネタバレあり)

 『アンテベラム』を見た。

www.youtube.com

 非常に凝った作りの作品である。舞台は南北戦争前のルイジアナ州プランテーションで、中盤まではそこで奴隷にされている女性エデン(ジャネール・モネイ)の悲惨な生活を描いている。ところが途中でこの世界にはどうやら携帯電話があることがわかり、中盤から舞台は現代のアメリカらしいということがわかる。実はエデンは現代アメリカで人種差別と戦っている社会学者ヴェロニカで、白人至上主義カルトに誘拐され、この南北戦争前の生活を再現したコミュニティに監禁され、虐待されているらしいことがわかってくる。この外界から隔絶されたコミュニティでは奴隷制が敷かれ、拉致された黒人たちが白人たちにひどい虐待を受けて働かされている。エデンはなんとかして逃げようとするが…

 やりたいことはわかるのだが、全体的に人種差別や白人至上主義の恐ろしさを真面目に描きたいのか、レイプリベンジ映画みたいなジャンル映画にしたいのかがよくわからず、イマイチバランスの悪い作品である。ひとつひとつのモチーフはえらいリアルなのだが、それぞれの接続が中途半端にエクスプロイテーション映画っぽく、もっとどちらかに振り切った形にすべきなのではないかと思った。政治活動で目立っている女性が悪質な脅迫や嫌がらせの対象になるというのは極めてよくあることだし、白人至上主義カルトではないのだが女性を性的に虐待して烙印を押すカルトというのは実際にNXIVMという悪名高い組織が存在して最近裁判があったので、けっこう現実的な話題を扱っている。白人至上主義者による悪質な活動だとか、南北戦争前の南部にぼんやりアメリカ人が感じるノスタルジーの危険性とか、歴史を再現するのが娯楽として人気があるとか、このあたりもひとつひとつは非常に現代アメリカの世相を反映したものである。

 ところがそういうかなり現実の差別と暴力に即したシリアスな話を扱っている一方、展開がなんか70年代あたりのブラックスプロイテーション映画(パム・グリアが暴れ回るようなやつ)みたいで、ひどい虐待を生々しく見せて最後はそれに復讐する、という見せ物っぽい作りになっている。ものすごいトラウマを受け、今後も二次加害やら法的問題やらに対処せねばならないはずのヴェロニカが復讐をしてあっさり終わりになってしまう。とくに最後は外界から隔離されたはずのプランテーションを抜けたらすぐ外に歴史再現テーマパークがあり、ヴェロニカが南北戦争の戦場を駆け回るカッコいい絵を撮りたかったという以外にあんまり必然性のない展開があり、この緩さはエクスプロイテーション映画っぽいな…と思った(白人至上主義の恐怖は日常と隣り合わせです、ということを言いたいのだろうが、ちょっとあざとすぎる)。これなら最初からストレートに白人至上主義カルトの恐怖を描く、みたいな映画にしたほうが良いのでは…と思った。

 

音楽やダンスはいいが、台本は…シアタークリエ『グリース』

 シアタークリエで『グリース』を見てきた。有名なミュージカルで映画のほうが見たことがあるが、舞台を見るのはこれが初めてである。

www.tohostage.com

 初演は1970年代だが、作品じたいの舞台は1950年代である。高校生のダニー(三浦宏規)とサンディ(屋比久知奈)は夏休み中にビーチで出会って恋に落ちるが、サンディはよその学校に行く予定だということで夏の終わりに別れる。ところがサンディは寄宿学校に入る予定が変更になり、ダニーと同じ高校に転校してきた。しかしながら不良集団Tバーズのリーダーであるダニーは、自分のイメージとは全く違う真面目なお嬢様であるサンディを真剣に好きになっていることを他のメンバーにからかわれたくなく、サンディに冷たい態度をとる。二人の恋の行方は…

 歌やダンスがたいへんキャッチーで音楽的にはとてもよくできている作品だし、50年代ノスタルジア風な衣装などもオシャレで、その点については楽しめる。しかしながら台本がさっぱりダメ…というか、ダニーは始終、自分の見栄のことばかり考えていて最後までに成長しないのにサンディばかりが悩んだ末に外見を変えるということになっていて、ずいぶんと男性中心的な展開である。全体的にダニーがあまりにも挙動不審かつ自己中心的で、とくにドライブインシアターの場面などはあそこで決定的にサンディにふられても当然と言えるくらい態度がひどい。歌とダンスは素晴らしいがお話がダメな作品ということで、そのへんは時代の制約を考えて見るしかないんだろうと思う。

 

グリース (字幕版)

グリース (字幕版)

Amazon

 

韓国で撮る必要あるの?~『聖地X』(ネタバレあり)

 入江悠監督『聖地X』を試写で見た。

www.youtube.com

 小説家志望の輝夫(岡田将生)は父親が残した遺産である韓国の別荘で暮らしていたが、そこに夫と別れて出てきた妹の要(川口春奈)がやってくる。ところが要は町で夫の滋(薬丸翔)を見かけたあたりから不審な出来事が起こるようになる。どうやら原因は近くにある開店準備中の和食店らしいのだが…

 発想じたいはたいへん面白いホラーだと思うのだが、それが全然生かせていない…というか、いくつか大きな問題がある。まず、一番大きな問題は韓国で撮る意味が全く見いだせないということである。途中で韓国の土着の祈祷師であるムーダンが出てくるのだが、そこ以外に韓国という設定に意味があるところは全くなく、単に「外国のきれいなところに行きたいから撮りました」みたいになっている。ムーダンも別にムーダンである必然性は無いので、沖縄か奄美か、あるいは東北のどこか昔の民俗的風習が残っているところでやったほうがいいと思う。

 次に、オチの付け方が強引すぎる。あまりネタバレにならないようにぼかして書くが、最後に韓国に残った滋の問題が完結する過程があまりにもいい加減である。私の意見では、要があの滋(たぶん滋の中では一番まともな性格が集まった滋なのではないかと思う)と結局一緒に幸せに暮らしました、という方向性にしたほうがホラーコメディとしては面白いのではないかと思う。全体的にこの映画は怪異現象の原因には興味がなく、いかにも意味ありげに出てくる和食店のご神木と井戸の詳細なども全く説明されず、どうやって滋の問題を解決するかに重点が置かれているので、ホラーというよりはブラックコメディふうにまとめたほうがいいと思う。

 もうひとつの問題は、これは要を中心の台本にすべきだったのに、輝夫が主人公なので構成がはっきりしなくなっているということだ。プロット上で一番大事なのは要がどうやってボロボロになった結婚に決着をつけるかということなので、たぶん要をヒロインにしてホラーコメディ風にまとめたほうが一貫性のある話になる。ところが輝夫を主人公にしているせいで、離婚をめぐる話なのか、頼りない男が謎解きを頑張るミステリ風ホラーなのかよくわからない感じになってしまい、非常にはっきりしない。