リミニ・プロトコル『資本論』にホンモノのマルクスは登場してません

Baby Marx

 動画はリミニ・プロトコルとは全然関係ない、ハマトリのペドロ・レイエス作品。最近アートの世界ではマルクスが流行ってるんだろうか?


 …で、今日はリミニ・プロトコルの『資本論』を見てきた。この作品はもう見ておかないと一年中うちの仲間内では話が通じなくなりそうなくらいの超話題作で、去年の『ムネモパーク』も良かったから期待していたのだが、去年みたいに見ていてうきうきするくらい楽しいという感じではないものの、やっぱり面白かった。


 とりあえず前売りはほぼ完売で当日券もだいたい売り切れてるくらいの人気ぶりなのだが、まず目につくのは去年と違ってセットに奥行きがないことである。舞台上に本棚みたいなものを建ててそこに12人の人が入るというセットになっているのだが(地味に先輩が出てたりもするのだが)、『資本論』みたいに重厚長大な本をこんなに奥行きのないセットでやるという心意気がなんとなくいいと思った。

 
 …で、まず素直にびっくりしたのは、マルクスを研究している人がまだ結構世界には残っているということである。7年大学にいてマルクスを研究しているという人には会ったことがないのだが(サルトルを研究している人にすら会ったことあるのに)、今回は結構な大家らしい人から30代くらいの人までマルクス学者が大挙出演していて、みなさん頑張っていただきたいものである。ただし、出てきているマルクス研究者に一人も女性がいないということは注目すべきだと思うが(私は『資本論』は今日やっと第一巻を読み終わっただけなのだが、女性にとっては読んでいてムカつくところが結構あるテキストだと思った)。


 …で、マルクス研究者の他に、ギャンブル中毒者、政治活動をやってる若者(この人は反捕鯨運動家。日本に連れてきたなんて勇気あると思った)、目の見えないレコードコレクター、同じく目の見えない日独バイリンガルの人、ロシア語通訳者(唯一の女性)、演劇研究者(うちの大学の先輩)、作家などが登場して『資本論』の一節を読んだり、それにからめて自分の人生を語ったりするのだが、何がどうなってるとかうまくは説明できないんだけど、何とも言えない面白さがあるのである。やっぱり本職の役者を出してないところが私みたいな演劇が苦手な演劇見を面白がらせるとこなんだろうと思う。限りなくホンモノに近い人が出てきてホンモノに近い人生の話をするのに、やっぱり演劇だからホンモノではないのである。資本主義も共産主義もホンモノに近いのだがやっぱりホンモノではないんだと思う…このお芝居に出ている人のうち、10人中2人は目が見えないというのは示唆的だ(ちなみに、私が見た中ではこの目の見えない二人のキャストが一番キャラが立っていた気がした。とくにレコードコレクターさんは面白い)。イデオロギーや経済は目には見えないもので、はっきり言って全部我々の妄想からなっている。この『資本論』は、みんながいかに目に見えないものに左右されているかをすごいよく示している演劇であるような気がする。