顔で落とす二本立て『メイプルソープとコレクター』、『ミルク』


 

 上の写真はオスカー・ワイルドとアルフレッド・ダグラス…というのはウソで、本当はロバート・メイプルソープとコレクターのサム・ワグスタッフ。

 ホンモノのワイルドとダグラスは下の写真。

 と、いうわけで、『メイプルソープとコレクター』を見てきた。

 この映画、ご当人のメイプルソープとワグスタッフはなくなっているので、主にメイプルソープと一緒に暮らしてたパティ・スミスのインタビューが主である。

 で、私は実はたいした根拠もなく、メイプルソープっていうのはすごい才能ある写真家だけど写真はそんなに好きってわけじゃないし、あと本人はきっとヤな野郎だったんじゃないかとなんとなく思っていたのだが、この映画を見てもやっぱり本当に結構ヤな野郎だったんじゃないかという気がした。どのセルフポートレートを見てもやけに映りがいい上(→自分の魅力がどう発揮されるか心得てる)、生前の知り合いの話をきいても、どうもなんかほめ方が微妙で「あいつは才能と魅力をいいことにずいぶんわがままに振る舞ってた典型的自己中アーティストだったよ」みたいなにおいをかぎとってしまったので(私の全くの妄想かもしれないが…)、きっと生前はあのハンサムな顔でパティ・スミスとかに有無を言わせずモデルを頼んだり、ワグスタッフをはじめとするコレクターを顔で落として周りの人から嫌われていたに違いないと思ってしまった(だってなんかあのセルフポートレートの顔で何か頼まれたら断れなさそうだ)。まあ、なんかメイプルソープも結構人生つらそうな人なのでしょうがない気もするのだが、つらい人生の中で守ってくれそうな人を顔で落とす術を身につけたのかもしれないと思う。



 その後『ミルク』を見たのだが、これもまたショーン・ペンがひたすら顔で落とす映画だった。ショーン・ペンがこんなふうに笑えるなんて思ってもみなかった…ペンってそんなに顔立ちが典型的なハンサムとかそういうことはないのに、顔全部でにこーっと笑うと相手の警戒心を完全に解いちゃうような顔になる。で、この『ミルク』では、開始5分でペン演じるハーヴェイ・ミルクジェームズ・フランコ演じるスコットをナンパしてこの圧倒的な笑い顔で落とし、交際相手にフラれて大ショックを受けているクリーヴ(エミール・ハーシュ)をにっこり笑って元気づけ、サンフランシスコの有権者たち(LGBTだけじゃなく、トラック組合のおっさんたちや老人ホームのじいちゃんばあちゃんとかも)の中でもこのにっこり笑顔で支持を取り付け、精神の病を抱えているジャック(ディエゴ・ルナ)もやっぱり所要時間5分くらいでにっこり笑って落としてしまうのだが、最後、このにこにこ笑いが一人だけ通用しなかったダン・ホワイト(ジョシュ・ブローリン)に暗殺されてしまう。全体として『ミルク』はショーン・ペンの笑顔演技が堪能できる映画で、アカデミー賞とったのも納得という感じがする。


 この『ミルク』には、あまりはっきりとは描かれていないのだが、ミルクとそのスタッフがダンはホモフォビアに取り憑かれているクローゼットのゲイなんじゃないかと話し合うところがあって、実は私もこの映画を見ていてかなりそういう印象を受けた。全く明示されてはおらず、非常に曖昧な描き方になっていて、もちろん史実でどうだったのかは全然わからないのだが、保守派ガチガチの人よりもホモフォビアに悩んでいるが実は同性愛的傾向のある人がオープンリーゲイの同僚を射殺するというほうが、映画としては断然深みがある。


 あと、この映画は結構音楽の使い方もうまい。ミルクはクラシックファンという設定で、『トスカ』がライトモチーフ風に使われているのだが、ガス・ヴァン・サントだけあってロックも要所要所で出てきてて、選挙事務所でミルクがカミングアウトをすすめる場面でパティ・スミスの'Till Victory'がちょっとだけ流れるところとかはいい。


 ちなみに私は日曜深夜割引で見たのだが、あまりお客さんは多くなかったんだけど両隣がどう見てもゲイカップルで、とくに左側のカップルがラストにボロ泣きしており、映画終了後には拍手が起こった。私が今まで映画見てきてラストで拍手が起こったのは『戦場のピアニスト』だけだと思うのだが(それも拍手二発くらいで終わった気が…)、『ミルク』はまばらながらも結構ちゃんとした拍手でびっくりした。