「忘れえぬロシア」展、「やなぎみわ マイ・グランドマザーズ」展、『ムツェンスク郡のマクベス夫人』

 昨日の続きだが、昨日は『ある公爵夫人の生涯』を見た後、映画館の下の文化村ザ・ミュージアムで「忘れえぬロシア 国立トレチャコフ美術館展」を見てきた。これはクラムスコイの「忘れえぬ女」が売りの展覧会で、たしかにこの「忘れえぬ女」は独特な絵だし日本人受けもしそうだなーと思った。その他印象に残った絵としてはヨシフ・ブラースが描いたチェーホフ肖像画があったのだが、それがロバート・ダウニー・ジュニアそっくりだった(ロバート・ダウニー・ジュニアでチェーホフの伝記映画撮ればいいかもと思った)。
 あと、鉱山街の女性を描いたカサトキンの絵に「女鉱夫」っていう邦題をつけた奴はちょっと勉強し直したほうがいいと思う(せっかくいい絵なのに)。普通「鉱夫」って男にしか使わないと思うのだが…たとえば「女農夫」っていう絵があったらおかしいと思うでしょ?日本語には「鉱婦」っていう単語があるし、別に「鉱山で働く娘」とかでもいいと思うのだが、いったいどこから「女鉱夫」なんていう言葉をひねり出したんだろう。周りの人はおかしいとは思わなかったんだろうか。


 その後写真美術館で「やなぎみわ マイ・グランドマザーズ」展を見てきた。これは若い女性に自分が想像する50年後の姿に変装してもらってそれを写真に撮るという企画なのだが、展示数は少ないんだけど大変面白かった。どの未来予想写真もすごく個性豊かなおばあちゃんになっていて、どうやら東大生であるらしい韓国系の女性なんかもモデルになっており(50年後は韓国系の女性としては初めてテレビ会社の社長になっているという設定)、ちょっと親近感を感じた。しかし、一部屋だけのちっちゃい展示なのに、水商売やってる未来像が二つもあったのはなかなかジェンダーの非対称を感じるなと思った。男性で「ホストクラブを経営してるオシャレなじいさん」とか「50年間欠かさずボールダンスの芸を磨いてきた男性ストリッパー」とかの未来像を想像している人はめったにいないと思うのだが、女性だとそういう元気なお水ばあさんとしての未来像がある程度ちゃんとしたものとして存在するのである。これは面白いのか悲しいのかよくわからない。


 その後、『ムツェンスク郡のマクベス夫人』を見てきた。私は今までオペラというものはテレビでしか見たことがなくて、たまたまオペラを研究している友人がシェイクスピア関係の話だということで誘ってくれたので行ってきたのだが、ヴェリズモオペラでショスタコーヴィチだというからかなりわかりにくいかと思ったら、まったく昼メロのようなドロドロのきわめてわかりやすいお話で(そこまで『マクベス』に関係なかった)、音楽も意外に初心者向けな感じだった。
 で、ひとつちょっと面白かったところがあって、なんかこのオペラの第一幕にヒロインの家の下男たちが女中を集団で手込めにしようとする場面があるのだが、ここが『ウェストサイド物語』でジェット団がアニタを襲おうとする場面にかなり構成が似ていてびっくりした。『ウェストサイド物語』は言わずと知れた『ロミオとジュリエット』の翻案なのだが、アニタがジェット団に性的嫌がらせを受ける場面は全く原作にないので翻案チーム(バーンスタインとかジェローム・ロビンズとか)の誰かが考えて作ったんだろうと思っていたのだが、ひょっとしたらシェイクスピアつながりでこのオペラを参考にしたのかも…と、全く根拠なく思った。
 全体としてはやっぱり生音のオペラはとてもいいなと思ったのだが、チケット高いし長いので敷居が高いなぁと思ってしまった。とくにシェイクスピアとか英文学関係のものを中心にオペラをもっと見たいのだが、習慣をつけないとなかなか行かない気がするので、難しいところである。