『苛々する大人の絵本』、『フー・キルド・ナンシー』

 昨日は庭劇団ペニノの『苛々する大人の絵本』と、『フー・キルド・ナンシー』を見てきた。


 『苛々する大人の絵本』は、ペニノに所属している、最近例の猫っぽい方のところで曝された私の同期にメールもらって行ってきたのだが、とりあえずかなり会場がわかりにくいところにあって、「ファーストキッチンを左」というからファーストキッチンを左に曲がったら明後日の方向に出てしまい、よく考えたら国連大学前の通りにはファーストキッチンが二つあったことに気付いたので(昔あのへんで働いてたんだけどな…)、戻ってファーストキッチン②を曲がってようやくたどり着くことができた。

 で、内容なのだが、とにかくその名のとおりに苛つくというかムカつくというか、わざと不快なところを狙ってくる芝居だった(既に見に行った友人に「フェミニストは苛つくよ」と言われていたのだが、ほんとに苛ついた)。絵本と銘打っているが、内容はむしろポルノグラフィだと思う(私の頭の中にあるポルノグラフィ像ははっきり言って19世紀で止まっているのであまり自信がないが)。で、私は2300円払ってアパートの一室でポルノグラフィを見せられて不快にさせられるのは全く好きではないのだが、たぶん独りよがりさで人を不快にさせるのが目的の舞台なので、その点では成功はしていると思う。

 …で、ひとつちょっと困ったのだが、この舞台では木が生えた部屋に人が住んでいてその木の樹液みたいなのを食べているという設定なのだが、住人が冒頭でひたすら「木がコーフイテル」と言うのである。で、私はこれが一体どういう意味だか全くわからなくて、脳内ATOKで必死に変換しようとしたのだが、結局最後までよくわからなかった…ので後で友人にきいたら、木が枯れるときに「粉をふいてる」らしい。えーっ、木が粉をふくって、それ共通語?



 その後シアターNで『フー・キルド・ナンシー』を見た。これはその名の通り、ナンシー・スパンゲン(映画の中ではみんなスパンジェンと発音してたと思う)を殺したのはほんとに元セックス・ピストルズシド・ヴィシャスか?というドキュメンタリーで、かなり気合い入った作品である。
 
 どうもシドというのは大変不思議な人だったようで、ナンシーより前には全く女と関係したことがなかったらしい(ロックスターなのにガールフレンドがいないとは全く信じられない話だ)。色恋のからまない女友達は結構いたらしいのだが、ドレスをどうやって切って仕立て直したらかっこいいかとか、そんな話ばっかりしてて女同士みたいだったらしい。ナンシーとつきあい始めた後も、トランスヴェスタイトを連れて歩いたりとか、男性相手に売春してたとかいう噂があったらしい(ちなみにディー・ディー・ラモーンもそういう噂があって、シドと同様スーパーグルーピーでbitchだったらしいコニーとつきあっていた)。ひょっとしたらバイセクシャルだったのかもしれないし、あるいは"sissy"としていじめられるようなタイプの男の子だったのかもしれないと思うのだが、そのわりにやたらにケンカっぱやくて、友達になりたいと思った相手は必ずボコボコにしていたらしい(?!)。おそろしく精神不安定で、精神状態がヤバくなると動物虐待をやってたりしていたらしいのだが、そのわりに周りの人間には「あいつは少し頭おかしいけど本当はいいヤツなんだよ」などと言われて好かれていたらしい(???)。

 で、ナンシー・スパンゲンはスーパーグルーピーですごいbitchで野心満々なもんでみんなから嫌われていたらしいのだが、ロックの世界は明らかに男性中心主義的なのでそのへんは割り引いて聞く必要があると思った(オノ・ヨーココートニー・ラヴ)…ものの、シドと昔から仲が良かったらしい他のグルーピーの女の子たちからもあまり好かれていなかったようなので、どうやら異性からも同性からも嫌われるタイプだったらしい。頭おかしいけどみんなから好かれているシドと、頭はすごくしっかりしているがみんなから嫌われるナンシーがくっついたわけで、それはそれで割れ鍋に綴じ蓋的な相性の良さ…な気がするし、「愛の反社会性」みたいなものを体現している感じでパンクロックの世界で美化されるのもわかるなーと思った。

 この映画の主眼は「ナンシーを殺したのはシドじゃないだろう」という話なのだが、見ていてびっくりしたのは、ナンシー殺害現場にいた人たちの記憶があまりにもはっきりしてないということである。ナンシーが殺害された前の日には大量の人がチェルシーホテルのシドとナンシーの部屋に出入りしていたらしいのだが、たいていのヤツはヘビードラッグでラリっていた上、多少まともなヤツもマリファナか酒か睡眠不足の影響下にあったみたいで、一体何人の人がどの時間に部屋にいたかは藪の中状態らしい。その上シドは睡眠薬の飲み過ぎで完全にトンでおり、ナンシーを殺すどころか立って歩くことすらあやしい状態だったとか…映画を見ていて、これはたしかにナンシーを殺したのはシドじゃないかもしれないけど、そもそもシド自身がドラッグ及びその他の精神障害の影響で本当はやってないのに自分がナンシーを殺したと妄想していてもおかしくないし、この混乱状態ではよっぽど頭のいい捜査員を投入して秩序だった調査をやらないと永久に真犯人なんかわからんだろうという印象を受けた。
 そういう点では、この映画は非常にドラッグの危険性を訴える内容になってるかもと思ってしまった(全然そういう映画ではないのだが)。