ナショナルポートレートギャラリー&ナショナルギャラリー

 昨日はナショナルポートレートギャラリーの特設展示を見た後、常設展示を見て、そのあとナショナルギャラリーにも言ってきた。


 ナショナルポートレートギャラリーは肖像画・肖像写真・肖像彫刻ばかり集めた国立美術館ということでちょっと変わったコンセプトなのだが、エリザベス一世シェイクスピアといった歴史上有名なものから、前衛的で何が書いてあるかよくわからない現代のものまで、コレクションは大変充実している。しかし、チャールズ王太子エリザベス2世夫妻のような現代人であっても、要人は写真だけじゃなく肖像画が展示されているというところがおもしろかった。しかもこの手の要人肖像画はどれも写実的で、デフォルメやアヴァンギャルドな手法を用いて芸術っぽくすることはあまりない(ちょっと遊んだりしているところはあったが)。日本の美術館で現役の天皇とかの肖像画が飾られるというのはあまりないことだと思うのだが、やっぱりこれは文化の差なんだろうか。

 18世紀から19世紀くらいの肖像画のコーナーにはシェイクスピアその他の芝居を上演するスターたちの姿を描いたものがたくさんあり、演劇を研究している者としてはこういうのは大変参考になっておもしろいと思った。サラ・シドンズやネル・グウィンがどういうふうに舞台に立っていたのかなんて、こういう絵が残っていなければさっぱりわからなかったに違いない。もちろんこういう絵は美化されているはずなので現実の舞台とはかなり違うと思うが、そうは言っても全く何も手がかりがないよりは断然マシである。そしてサラ・シドンズもネル・グウィンもとても魅力がある。

 ちなみに「文芸」コーナーにはロマン派の作家の肖像画がそろい踏みだったのだが、優しげだが今にも死んじゃいそうなキーツ(夭折した)や、一見まともそうだが実は神経質そうなP・B・シェリーとかに比べて、バイロン(この絵)の飛び抜けた伊達男っぷりが際だっていたように思う。出版史上初めて追っかけがついた作家というだけあってオシャレだったようだが、この肖像画を見て、ジョニー・デップがあまり年をとらないうちにバイロンの伝記映画を製作したほうがいいんじゃあないかと思った。



 その後、お隣にあるナショナルギャラリーに行った。ここにある主なお宝は


クラーナハのヴィーナス(ヴィーナスがあまりグラマーじゃなくてよろしい)

『アルノルフィーニ夫妻』(不気味)

フェルメールの『ヴァージナルの前に立つ女』と『ヴァージナルの前に座る女』(前者が愛の理想を、後者が愛は理想的ではなかったことを示しているとか)

ベラスケスの『鏡のヴィーナス』(官能的な絵だと思っていたのだが、全然エロティックじゃなかった。とても哲学的でかつ悲しい絵だと思った。意外に劣化しているように思ったのだが、なんとこの絵は昔、少しおかしい過激派フェミニストからテロまがいの攻撃を受けたことがあるそうだ…何が気に入らなかったんだろう)

ブロンズィーノの『愛の寓意』(わけわからない絵だった)

ホルバイン『大使たち』(みんな脇のほうから見て喜んでいた。もちろん私も)

ゲインズバラ『アンドルーズ夫妻』(『怖い絵』でとりあげられていたあれである)

ホガース『当世風結婚』

ボッティチェリ『ヴィーナスとマルス』(ありがちな男性のふるまいを風刺的に描いた絵だと思っていたのだが、なんと解説によると、この絵は「ヴィーナスの傍らで眠りこけているマルス」=「愛が戦いに勝利した」ことを暗示しているという説があるらしい。へえー!)

ターナーの、何が描いてあるのかすらよくわからないくらい抽象化された水と光の絵画群


 などである。ちなみにレオナルド・ダ・ヴィンチの『岩窟の聖母』はなんと検査中で出てなかった…残念だが、パリで別のバージョンを見た気がするので、まあいいとする。