Mixed Up North、ウィルトンズミュージックホール

 昨日は授業で新しいロビン・ソーンズの芝居Mixed Up North(『まぜこぜの北』?)を見てきた。学科から補助が出たので、料金はタダだった。

 ウィルトンズミュージックホールはいかにもミュージックホールって感じで、人通りもあまりないショボい通りに下北チックに建っていた。友達とかなり時間に余裕を見て行ったところ早くつきすぎてしまったので、併設されているパブで夕飯を食べたのだが、なんかそのパブではイギリスには珍しい野菜たっぷりの軽食が饗されており、誘惑に負けてスープセットを食べてしまった。高かったけどすごくおいしかった。あと、この芝居は9月に始まったのにすでに戯曲が出版されていたので、普通は8.9ポンドのところ3ポンドに割引されていた戯曲を購入し、英語が聞き取れなくてもなんとかなるよう準備した。


 このお芝居は、ランカシャーバーンリーという街を舞台にしたもので、ほぼ実話にもとづいているらしい。全然知らなかったのだが、バーンリーでは2001年に南アジア系住民とコーケイジアンが衝突する大暴動があったそうで、その後にコミュニティ間の溝を埋めるべく、いろいろな民族の若者を集めた演劇企画が立ち上げられたそうだ。で、その企画の中で若者たちはいろいろなことを学んだりする…ものの、押し隠されていた問題がかえって浮上してくることもあったりする。一番の問題は企画に資金を出しているお役所の上のほうが全然ダメだってことである。作りはかなりドキュメンタリー演劇っぽい感じで、観客の中に役者が仕込まれてたり、芝居の最中に最前列の人たちがお菓子を配られてたり、まあそういう感じの芝居だった(椅子の配置を見た瞬間「これは最前列に座るといじられるな」と思ったので、私は後ろに座ったのだが)。


 で、役者さんたちはみんなすごい頑張ってると思うし、お芝居自体も全体としてはパワフルで面白かったのだが、ラストシーンがリミニ・プロトコルの『ムネモパーク』に似すぎているのが問題…アジア系の住民がボリウッドっぽい芝居を上演するっていう話なので、最後がボリウッドダンスで終わっちゃうっていうのは別に必然性がないわけではないのだが、『ムネモパーク』を見ている人には「またあれか…」って感じがするんじゃないかと思う。

 あと、全体としてちょっと性暴力の取り扱い方が安易すぎでは…という気がした。最初のほうで「子供の頃性的虐待を受けていた」という男性が独白したり、「最近強姦された」という話をする女の子が出てきたりするのだが、このあたりがどうも昼メロっぽくて、ただ告白するだけできちんと話が解決されてない気がした(このあたりはドキュメンタリー演劇っぽくするということで仕方ないのかもしれないが)。とくに、強姦された女の子の相談にのるおばさんの対応がなんかちょっとその「優しいは優しいんだけど思いっきり外れてないかそれ?」みたいな感じで、笑っていいのかダメなのかよくわからなかった。


 後半はもっとちゃんと話がいろいろ落ちるとこに落ちるような構成になるのでぐんと面白くなったのだが、しかし、イギリスの地方都市に住んでいるワーキングクラスの若い女性は民族にかかわらずほんとつらい人生を送ってんだなという気がした。もちろんみんながみんなそうではないのだが、出演者の一人が、高校生くらいの妹が援交オヤジに誘惑されてコカイン中毒になり売春を始めてしまった…という話をするところがあって、これはまったくやりきれないったらありゃしないと思った。貧しい女の子を買春オヤジがたぶらかすというのは英文学によく出てくる題材なのだが、芝居に出てくる女性陣はこういうのを撲滅するためにいろいろ女の子が教育を受けて自衛できるような活動をしようとしているのに、役所の上のほうはどっちかというとこの買春オヤジに近い立場の人たちなので、なかなか資金が下りてこないのである。このあたりは日本でもありそうな話だと思った。