グローブ座『ヘンリー八世』

 昨日はグローブ座で『ヘンリー八世』を見てきた。『ヘンリー八世』は戯曲を読んだかぎりではそう面白い話ではない…のだが、舞台にかけるとパジェントっぽい演出が多くて見栄えがいいのにびっくり。グローブ座にしては派手な舞台だった。


 開演してすぐ天気が悪くなったのはあまりよくなかったのだが、最初のバッキンガムの処刑場面は雨でかえってよくなった。舞台の前面の屋根もないところに立ってびしょ濡れになりながら台詞を言うバッキンガムの悲劇的な様子が憐れを誘う。役者は大変だっただろうが、お客さんはすっかりバッキンガムに同情して舞台に引き込まれてしまう感じになった。
 

 そのあとはヘンリー八世とアン・ブーリンがかなりパワフルでなかなかよかった。この芝居は読んでいるかぎりではヘンリー八世が面白い人物とはあまり思えないのだが、ドミニク・ローワンのヘンリー八世は見た目マッチョなのに精神が結構複雑で、ある瞬間は繊細かと思えばある瞬間は悪ふざけにふけり、ある瞬間は寛大だが次の瞬間には急に恐ろしくなる絶大な権力者をとてもうまく演じていた気がする。ミランダ・レイズンのアン・ブーリンはえらくビッチで、若さと色気でヘンリーをとりこにする利発なレディになっており、これも原作よりはるかにビビッドな印象を受けた。


 一方、リアルだけど原作に比べると憐れさが少なくなっているように思ったのがキャサリン王妃とウルジー枢機卿。ケイト・デュシェーヌのキャサリン・オヴ・アラゴンはスペイン訛りでヒステリックに話す中年女性で、誇り高く偉大であるがゆえに若くて生まれの低いアン・ブーリンほどうまく立ち回ることのできない不器用な女性という印象を受けた。イアン・マクニースのウルジー枢機卿はなんかものすごく狸じじいっていうか悪徳坊主っていう感じなのだが、部下には意外と慕われていたりする。この二人については描写のセンチメンタルさを廃して、長所はあるのだが欠点とかちょっとした失敗のせいで失墜する人々としてかなり親近感のある形で演出する方針であるように思った。
 

 全体として、生々しい宮廷の権力闘争を見た目に華やかな衣装やセットを使いつつすごくエネルギッシュに描いた舞台で、非常に面白かったように思う。しかし、戯曲ではちっとも面白くない箇所も舞台にかけるとこんなに面白くなるんだなぁ…『ヘンリー八世』とかはあまり日本では上演されないと思うので、こんなしっかりした舞台を見れてよかった。