リミニ・プロトコル'Best Before'〜観客200人がいっぺんに人生ゲームをやる芝居

 リミニ・プロトコル'Best Before'を見てきた。これはヴァンクーヴァーオリンピックの時に文化事業として上演されたもので、今回はLiftという演劇祭の一環でロンドンに呼ばれたらしい。うちの界隈では大人気なみんな大好きリミニ・プロトコルだが、今回もすごく面白かったと思う。ゲーマーだとそうでもないのかもしれないのだが、芝居で客にゲームをやらせるというアイディアがとても斬新だった。

 'Best Before'に出てくる人は5人(+技術スタッフ)で、それぞれカナダで交通指導員やってるおばちゃん(道で「とまれ」とかの旗をあげたり下げたりする人)、カナダのゲームテスターの男性、ゲームのレイティングの仕事をしている若い男性、南アフリカ出身でやはりゲーム関係の仕事をしている女性、カウボーイハットをかぶった謎のギター男(音楽を演奏する)である。音楽男以外は基本的にお客さんにゲーム操作を教えるのが仕事なのだが、いろいろ自分の人生の選択について話したりすることもある。

 お客さんは全員ゲームのコントローラを与えられて、舞台の真ん中に座っている交通指導員、ゲームテスター、南アフリカの女性の指示に従って人生ゲームをプレイする。この三人の後ろに大きなスクリーンがあって、そこにお客さん全員に一人ずつ割り当てられた丸いダンゴみたいなアバターが写るようになっており、見ている人は自分のアバターを動かして人生の分岐点でいろいろな選択を行う。お客さんは200人近くいるので、スクリーンには200近くの丸いアバターがひしめき合うようになる。ゲームの舞台になっている国はベストランドで、通貨はベスト、アバターにはそれぞれ名前が与えられる。私のアバターの名前はカメリア(椿)だった。
 ところがゲームにはいつもVillainがいるのだということで、ステージの左端のブースに離れて座っているレイティング男がみんなの人生を邪魔しようと「伝染病の発生」とか「戦争の勃発」とかいやなニュースばかり伝えてくる。そのたびにお客さんは戦争に行くかどうかとかいろいろな選択をせねばならない。

 とりあえずこの人生ゲームはこの丸いアバターが生まれるところから始まるのだが、生まれる時にはまず性別とかをいろいろ選ばされる(「男は右に、女は左に分かれてください」とか)。その後もいろいろな質問について右と左に分かれて選択するのだが、これで面白いのは、生まれた後の質問のチョイスがまあなかなか政治的だっていうことである。

 15歳になった時の質問は「15歳になりました。セックスしますか?」なのだが、これで「セックスする」を選ぶとそのうち避妊もしておらず運も悪かった1/3くらいが妊娠して、中絶するかしないかを選ばされる。子供を生むとその後ちっちゃい丸がくっつくようになる(「養子に出す」オプションはないらしい)。これ、子供にやらせるといいんじゃないかな…普通の人生ゲームでどういう選択があるのかわかんないけど、15歳で妊娠した時どうするかとかいう分岐点のあるゲームはなかなか性教育に役立つのでは…ちなみに、私が見た回では「中絶する」(画面の左側)のほうに動こうとするアバターの進路を他の二つのアバターがブロックして子供を産ませようとする(?!)展開があったのだが、最後の最後に妨害されていたアバターが左側に飛び込んで、その勢いで邪魔していたアバターの片方が「子供を産む」にはみ出てしまい、そこでカウントダウンが終わってしまうという展開に。客席大爆笑だった。

 その後もなんかいろいろ政治的な質問が多く、「マリファナをすいますか?」(「はい」を選ぶとその後紫色の煙がくっつくようになる)とか、「ヘロインをやりますか?」とか、そんなんばっかり。「ベストランドは軍隊を持つべきですか?」という質問もあり、この質問が出た後ワーストランドがベストランドを二回攻撃してくるのだが、攻撃してくるたびにこの質問がまた出てくるのである。でも最後まで「軍隊は持たない」を選ぶ人が結構多かったなぁ…

 なお、成人すると'Bond'というボタンを押せばピンク色の大きい泡みたいなのが出て「結婚したい」サインになる。Bondサインを出している他の人(同姓婚も可。登場している役者のうち、南アフリカの女性は自分のガールフレンドのことを話していたのでレズビアンバイセクシャルのようだ)とくっつくこともできるようになるが、Splitボタンを押すと今度は離婚もできる。で、40すぎて独身の人には「あなたは40すぎて独身なので落ち込んでいます。銃を乱射しますか?」とかいう質問が出てきたりする(ええええーっ)。


 それでまあ最後は死ぬまでこの選択を繰り返すのだが、なんかこういうちょっとおかしな質問がいっぱい出てきてYesかNoかで短時間に決断せねばならないっていうのはなかなか面白かったなぁ…例えば「ヘロインは合法化されるべきか?」とか、普通あまり考えることのない質問だと思うのだが(しょっちゅう考えている人いる?)、ゲームでこういうのを選ばせるっていうのは自分が普段どういう考えを持って暮らしているのか改めて気づかせる効果があるように思う。

 あと、お客さんが初めて選挙をする選択の時にそれぞれの役者(プロの役者じゃないんだけど)が自分の初めての投票について話すのだが、南アフリカの女性の話には重みがあったなぁ…初めての投票はアパルトヘイト廃止の国民投票だったらしい。この女性は白人なのだが、アパルトヘイト廃止投票の時はまだ白人しか投票できなくて、白人は皆暴動を恐れていたとか、そういう話をしてくれた。

 そんなわけで、何がどう面白いのか話すのがなかなか大変な舞台だったのだが、とりあえず'Best Before'は斬新だしとにかくやっていて楽しかった。ただ、普段から人生ゲームみたいなものが好きな人はどう思うのかな…そういう人は私ほどゲームが珍しくないでそれほど斬新と思わないかもしれない。ただ、役者の話にはいっぱいゲームの名前が出てくるので、そのあたりは私は全然わからなかったな…('World of Warcraft'と'Packman'と'Grand Theft Auto'の話はしてたのだがそのほかにも5,6種類のゲームの話をしていた)ゲームの話がいっぱい出てくるってことは普段ゲームをする人も客に想定しているのではと思うのだが、どうなんだろう。