仏像男子も登場『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』

 今日は三本映画を見た。

 まずはユーロスペースで『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』。これはおそらく世界で最も価値のある美術品が集まっている場所のひとつであろうアムステルダム国立美術館の改築を主題としたドキュメンタリー…というよりは、改築が進まないことを主題としたドキュメンタリーである。

 国立美術館は19世紀のちょっと変わった建築家が建てた由緒ある建物らしいのだが、だいぶ使いづらくなってきたということで2006年くらいから改築することになり、真ん中の通路をぶち抜いて半地下の入り口にする改築案が採用された…のだが、これに街の自転車ユーザが大反発。はたまた脇に建てる予定だった研究センタービルが高すぎて周りの風景にそぐわないとか、入札がうまくいかないなどとことで、美術館×地域住民×官僚の三つどもえの戦いになり、とうとうやり手で有名だった館長が辞任する事態に…

 視点としては美術館が中心になっているので美術館側の言い分にもっともだと思われるところが多いのだが、しかしながら私としては住民側の意見も結構わかるなと思った。広い通路を通り抜けできるかというのは街の設計上きわめて重要な問題なので(道幅を変えるだけで渋滞が起こったりするからね)、自転車乗りや区の交通担当者が神経質になるのもわからなくはない。あと、途中で住民が「美術館の門は『城門』と呼ばれていますが」という発言をしたのでわかったのだが、どうやらアムステルダム市民にとって美術館の門の通路というのは単なる交通路じゃなくて区と区の境界としての何か神聖なものとして扱われているようだ。気持ち的に神聖だからつぶすなというのはずいぶん非合理的なようだが、美術館というのは美を集めるところであって合理性よりは神聖さとかのほうが大事だろうから、無理筋だと言って却下するのはちょっと強引すぎる気がする。
 研究センタービルのほうも、私は見た瞬間「だっせー」と思ったので、市民があのデザインに納得しなかったのもかなりわかるな…本館が19世紀の風変わりかつ壮大な建物なので不用意にモダンでデカい建物を建てると全体の雰囲気がダサくなると思うのだが、そのへんは美術館側は配慮しなかったのかな…
 全体として、閉鎖する前に二、三回地域住民とミーティングしてればだいぶ状況が良くなったのでは…と思うところもあったので、これはいちがいに市民ばかりがうるさいのだとは言えないと思う。

 ただ、この映画はそういうもめごとばかりではなく、楽しい話もいっぱい詰まっている。学芸員たちが収蔵品の数々をチェックしたり修復したりするところはかなりの眼福。

 一番楽しいのは、アジア部門の責任者が日本の金剛力士像を買い付けようと必死に頑張るところである。ドキュメンタリーなのに一応キャラクター分けがしてあって、19世紀部門の担当者が野心満々の「美術史家」タイプである一方、アジア部門の主任は浮世離れした感じの「仏像男子」で、四六時中展示方法とか仏像とかのことばかり考えており、改築案が出た際には一週間家に引きこもってアジア館全体(展示品含む)の模型を作成し、館長や好きな仏像なんかの写真を配置して夢を見ているというキュートな学芸員である。この仏像男子は日本の金剛力士像を買い付けたいと二年半も願っていたのだが、とうとう買い付けがかなって仏像がアムステルダムに到着した際の顔の嬉しそうなことったら。仏像ともどもあまりにキュートでアムステルダム国立美術館に是非行きたくなった。
 あと、管理人のにいちゃんも大変キャラが立っていてよかった。美術館全体の運営には関わってないのだが、「この美術館はオレの女房か子供のようなもんです」と言って日夜改築中の美術館を点検してまわり、ヒビの位置なんかをまめにチェックしていく姿にはまったく感心した。こういうプロ意識のある管理人さんは絶対必要だ。


 というわけでこの映画は美術ドキュメンタリーとしてはかなり面白かったのだが、映画館で見る人は是非ポスターにも注目を…ひみつだけどポスターもかなりセンスいいですよ!