三村太郎『天文学の誕生』

 三村太郎『天文学の誕生』を読んだ。

 岩波科学ライブラリーから出ている120ページくらいのわかりやすい本なのだが、知らないことばかりで大変新鮮だった。

 この本によると、古代地中海世界ではプトレマイオス(天動説を唱えたアレクサンドリア天文学者)の天文学がよく研究されていたものの、5世紀以降ローマ帝国ではさっぱり流行らなくなったそうだ。その後ヨーロッパではプトレマイオス天文学コペルニクスあたりまで断絶していたが、実はその間イスラム世界でプトレマイオスその他の天文学が盛んに研究されていたらしい。とくにアッバース朝で「論証」(ブルハーン)を重視する天文学が発達したのだが、これは世界の仕組みをめぐって他の宗教(キリスト教ユダヤ教)の信徒と論争する場合に論証が重要視されたことに関係があるらしい。へえー。

 ヨーロッパがちょっとごたごたしている間(「暗黒の中世」というのは今ではだいたい否定されているが)にイスラム世界では科学が発達していたというのはよく言われる話だが、アッバース朝では議論による布教活動が行われ、異なる宗教の者たちが集まって議論をする機会がもうけられており、古代ギリシャの学問に通じた人々もそれに関わっていたというのが面白かった。信仰というのは科学ではないので合理的な説得とかによって得られるものではないというのが現代人の考えることだと思うのだが、この頃はどの信仰の世界観が一番合理的かが重要で、天文学の発達もそれに関わっていたらしい。

 …と、いうわけで、アッバース朝の話までは非常に面白いのだが、最後にそれがコペルニクスにどうつながったのかについてはわかっていないことが多いというオチになってしまうのがちょっと拍子抜け。コペルニクスイスラム圏の天文学書の名前をあげていないので、何を見ていたのかわからんらしい。えーっ、残念…是非続編を…