ジャン=ピエール・ジュネは悪い意味でフランス映画界のタランティーノになりつつあるんじゃないか?〜『ミックマック』

 台風だというのに、雨にも負けず風にも負けず『ミックマック』を見てきた。


 …悪くはないし、同じ題材で日本で映画を撮ったらたぶん全然つまらくなるのにここまでちゃんとできるのはまあすごいとは思うのだが、正直ちょっと期待はずれだったなぁ…私、ジャン=ピエール・ジュネ長編映画は全部見ているんだけど、なんかちょっとマンネリ化してきた気がする。



 この話のあらすじは、父親を地雷除去の失敗のせいで失い、自分は流れ弾にあたって頭に弾をかかえたまま生きることになった男が、ゴミ捨て場で暮らしている変わり者の廃品回収業者たちと協力して地雷と弾丸を作った武器業者に復讐をするという話である。こう書くとシリアスなアクションもののようだが、この廃品回収業者というのがまるで妖精みたいなヤツらで、超軟体女とか廃品発明家とかことわざオタクの民俗学者とか、変なのばっか。ジュネ映画の常連であるドミニク・ピノンも人間大砲男として出演している。復讐の内容もヘンなガジェットを使った悪質なイタズラ(←いい意味で)が主で、ユーモラスで痛快である(なんてったって相手は武器商人である。人死にが出なければどんなにバカにしたっていいのだ)。


 で、全編フレンチなユーモアとジュネらしい凝ったビジュアル、あとたまに出てくるバッドテイストで客を喜ばせるというのがこの映画なのだが、なんかビジュアルにしてもおとぎ話のような展開にしても、初めて『デリカテッセン』とか『ロスト・チルドレン』とか『アメリ』を見たときのような新鮮味がないんだよな…どの演出も、面白いことは面白いのだがどっかで見たことある感じがするというか…


 で、考えたのだが、ああいうゆるーいおとぎ話のような演出スタイルって、『アメリ』以降にずいぶん劣化版が出てそのせいでわりとマンネリ化しちゃったように思うのである。例えばタランティーノが『パルプフィクション』を撮った後、アクション映画でパルプフィクションっぽいスタイリッシュな演出とか時系列をいじくる映画作りが流行ったが、私の印象では『アメリ』の後にキッチュな色遣いのレトロフューチャーっぽい美術とか、登場人物が頭の中で考えたことをちょっとチープな映像にして見せる演出とか、おとぎ話のような語り口とかがかなり一般化したように思うのである。つまり、ジュネはファンタジー映画界のタランティーノなのではないかと…


 一時期タランティーノも結構精彩を欠いていたように思うのだが、ジュネもちょっと真似られすぎたせいでスタイルがマンネリっぽく見えるようになってしまっているのではないかと思う。しかしながらジュネにはアメリの劣化フォロワーにはないブラックユーモアがあると思うので、もっとそのへんを前面に出してまた新境地を開拓してほしいんだけど。