IRAがテーマのブラックコメディ、リリックハマースミス座『大物』"The Big Fellah"

 リリックハマースミス座でIRAをテーマにしたブラックユーモア芝居『大物』"The Big Fellah"を見てきた。内容は面白かったと思うのだが、ガラガラで…IRAネタはロンドンではウケないのか?

 とりあえず、おそろしく台詞が速い、多い、訛りが激しい、スラングが多かったので、字幕があっても全部追えない(+なんとか追えても何が面白いのかよくわからない)ところが多くて聞き取りがものすごく大変だった。アイルランドからアメリカに移住した人たちが主人公なのだが、字幕に"Cork accent"とか表示されるんだけどコーク訛りなんてわかりっこないよ…その上五秒に一回fuckを言うトムという登場人物がいて、その人の言っていることはほとんどわからなかった。笑いどころを確認するためプレイテキストを買ってきたので、あとで確認しよう…

 とりあえず主要登場人物は全員ニューヨーク住まいのIRAである。消防士をやってるアイルランド系のマイケル(なんとプロテスタント!)はイギリス軍の兵士を殺害した疑いをかけられているローリィ(Ruairiって綴り。ローリィと発音していたと思うのだがあまり自信ない)をアパートに匿ってやることにし、ニューヨークのIRAの大物(Big Fellah)であるコステロの配下に入る。しかしながらIRAというのは大変つらい組織(テロ組織だから当たり前だが)で、マイケルは恋仲になった女性のIRAメンバー、エリザベス(優秀だが性差別のためIRAで出世できない)との仲を無理矢理引き裂かれたり、いろいろな暴力事件に巻き込まれたり、数々のひどいめにあう。最後は組織の情報が警察に漏れているという話になり、情報をリークしていたコステロをマイケルが殺しておしまい。

 全体的にかなり激しい暴力描写がある芝居なのだが、これについてはもう少し改善の余地もあるかなと思った。エリザベスが殴られて連れ去られるところとかはもう少し緊張感とスピード感があってもよかったような…うちの角度からだと、実際にエリザベスと殴ってないのがミエミエでやや切迫感に欠けたので、もっと速い動きでごまかすべきだったんじゃないかと思う。

 台詞はちょっと全部理解できなかったのだが、わかったところはかなりブラックユーモアが効いていて笑えたので、もう少し英語のニュアンスがわかればもっと面白かったんじゃないかなと思って残念。マイケルがコステロ(それ以前に「ゲイじゃないな?」「コミュニストじゃないな?」とかしつこく確認していた)に「実は…プロテスタントなんです」と告白する場面は客席大爆笑だった。その後にコステロがウルフ・トーン(18世紀末に活躍した「アイルランドナショナリズムの父」みたいな人で、プロテスタントだった)についてえんえんと話し始めるあたりもちょっとおもしろい(全体的にこういうローカルネタみたいなものが多かったと思うので、英語がわからないよりは知識が少ないのがわかりにくかった原因なのかな…)。


 ちなみにこの芝居、最後が大変印象的。2001年9月の朝、マイケルが何気なく家でラジオをきいているとものすごいサイレンの音が…というところで終わるのだが、これは明らかに911である。つまりIRAのテロリストだったマイケルは2001年に消防士として今度はテロと戦う側に回らねばならない…ということを暗示しているのだと思う。2001年以前はIRAがおそらくアメリカで最もメジャーなテロ集団だったことを考えると(IRA関係の映画とかいっぱいあるし)、これはポピュラーカルチャーにおけるテロリズムの「世代交代」みたいなものを示しているんじゃないかな…途中でイスラムのテロリストに対する言及もあったしね。

 あと、全体的にラモーンズなんかをよく流してて、音楽の使い方も気が利いていると思う。面白かったけど、あまりお客さん入ってなかったなぁ…