通信大学(オープンユニバーシティ)「本の歴史と書誌セミナー」シリーズ第一回、モーリン・ダフィ「アフラ・ベーンを伝記化する」

 ロンドン大と通信大学のやっている「本の歴史と書誌セミナー」シリーズ第一回、モーリン・ダフィ「アフラ・ベーンを伝記化する」に出てきた。ふらりと行ったら五人しかいなかったのだが、すごく面白かった。

 モーリン・ダフィはイギリスで初めてレズビアンとしてカミングアウトした作家だそうで、伝記だけではなく芝居や小説も書く作家で、結構なお年で重鎮。今日はアフラ・ベーンの伝記"The Passionate Shepherdess: The Life of Aphra Behn 1640-1689"を中心に、ヘンリー・バーセルの伝記"Henry Purcell"やその他家族史などに関するノンフィクションについてのお話。


 


 なんでも70年代にダフィが調査を始めるまで、アフラ・ベーンはどこで生まれて何というバースネームを持っていたかもわからなかったらしい。ダフィはヴァージニア・ウルフの本を読んでアフラ・ベーンについて伝記を書こうと考え、折からの第二波フェミニズムにのってこういうよく知られていない女性作家の伝記でも出版社から出せそうだという話になったので張り切って調査を始めた…のだが、6ヶ月調べても子供時代のことが全くわからず、もう自分はこの本を仕上げられないんじゃないかと思ったらしい。ところがダメもとで大英図書館にあったトマス・カルペパー(ハーブ研究者)のコモンプレイスブックを調べていたところ、アフラ・ベーンの母がカルペパー家の乳母だったとかいう記述を発見し、一路ケント州の文書館で調査を開始。そこでEaffry(イーフリー)と誤って記載されたアフラ(Aphra)・ベーンの洗礼記録を発見し、アフラの子供時代が明らかになったらしい。まるで探偵小説のような話だが、しかし6ヶ月調査してやっとバースネームがわかるとは…研究には根気が必要だな。

 70年代まで忘れられていたアフラ・ベーンに比べて、イギリスでは大変人気のあるヘンリー・バーセルについてはもっと資料が残ってそうなもんだが、意外に文書が少なく苦戦したらしい。それでもパーセルの妻がワインバーをやってる人の娘だったとか、今までわからなかったことが結構わかったとか。


 しかし、ダフィは大変伝記の対象に感情移入するたちで、アフラ・ベーンとは恋に落ち、パーセルについて書いている時は自分がパーセルであるかのような気分になったそうだ。やはりそれくらいの情熱がないと6ヶ月何も見つからない調査とかに耐えられないのか…