世慣れた女性に見られることの重要性〜『緋文字』をベースにしたアメリカの高校映画、『イージーA』Easy A

 ナサニエル・ホーソーンの『緋文字』をベースにしたアメリカの高校映画、『イージーA』(Easy A)を見てきた。

 一応あらすじを書いておくと、親友ライアノンと出かけるのが億劫になったヒロインのオリーヴが、デートがあると嘘をついて外出を断ったことがきっかけ。次の日にデートの首尾をライアノンにきかれたオリーヴはちょっとした見栄からデート相手の大学生とセックスして処女でなくなったと言ってしまう。ところがそれをキリスト教右派で純潔オタクのメアリアンが小耳に挟み、学校中にオリーヴが処女じゃなくなったらしいという噂が流れる。
 やっかみまじりの噂ではあるものの、今まで目立たなかったのが一気に注目の的になったオリーヴは、たまたま友達になったいじめられっ子のゲイ、ブランドンの頼みで、ブランドンとセックスしたという噂を流す(というか友達のパーティに押しかけて、寝室を占領して二人で叫ぶという手法で噂を流すんだけど)。
 ブランドンはゲイ疑惑が晴れて一気にいじめられっ子を脱するが、オリーヴは「アバズレ」(whore)だと言う噂をたてられる。それを知ったオリーヴは「アバズレ」らしい格好をすることにし、露出度の高い服を買ってきてそれに高校の授業で習っている『緋文字』にちなんだ赤い"A"の文字を縫いつける。
 ブランドンが他のいじめられっ子たちにもその話をこっそり伝えたため、やっぱりいじめられっ子のデブの男の子がオリーヴに同じことをしてくれと頼む。お金を払うからと言って泣きそうになって頼まれたオリーヴはそれを引き受けてしまう…が、今度はなんとオリーヴが売春しているという噂がまわるようになってしまう。
 クラミジアをうつしているという噂が出回るわ、噂を本気にしてセックス目当てで近づいてくる男が出るわ、親友がショックでキリスト教右派に入って反オリーヴ運動を始めるわ、踏んだり蹴ったりのオリーヴ。しかしながら幼馴染みのトッドと両親に励まされたオリーヴは、評判を取り戻すべく、ネット中継を使って今までの嘘を全部告白することに…
 

 いろいろ他にも細かい話はあるのだが、まあだいたいこんな感じで、全体としてピューリタン社会における女性の排斥を描いている『緋文字』をかなり参考にしている作品である(なんかもう高校がほんとにピューリタン社会なんだ)。他にも脚本家は『エドウィン・ドルード』と『シラノ・ド・ベルジュラック』をリサーチしたらしいのだが、そのへんは実はよくわからなかったな…ただ、昔のアメリカ青春映画がかなりたくさんモチーフに使われている。カッコつけるために処女じゃないフリをする女の子のモチーフは『ラスト・ショー』だろうし、途中でヒロインが好きな映画として『すてきな片想い』『フェリスはある朝突然に』『キャント・バイ・ミー・ラヴ』『ブレックファスト・クラブ』『セイ・エニシング』とかが出てくる(とくに『ブレックファイスト・クラブ』と『キャント・バイ・ミー・ラヴ』はたくさんアリュージョンがある。実は後者は見てないんだけど有名な場面が引用されてる)。そしてたぶんこの映画の一番の名台詞は「私の人生はジョン・ヒューズが監督してるわけじゃないから…」というもの。

 すごくよく考えて作ってる映画だと思うし、十代の女の子がちょっと世慣れた女性に見られたいと思って見栄をはる様子が非常に克明に描かれてて前半は抜群に面白かったんだけど、最後のほうからちょっとたるくなってきたなぁ…なんていうか、やっぱりやっぱり最後までジョン・ヒューズふうのディレード・ファック映画だし、ヒロインは見た感じほどとがってないのもジョン・ヒューズのいい子ヒロインっぽくてつまらん。あと、最後がどうも安易だよなぁ…同系列のテーマの作品なら『野ブタ。をプロデュース』(書籍。ドラマは見てない)とかのほうがオチの付け方としては殺伐とした感じがキマっててずっと面白いと思ったんだけど。まあアメリカ映画だからねぇ…(ドラマのほうも結末が違うんだって?)

 オリーヴ役のエマ・ストーン(『ゾンビランド』のウィチタ役)は大変上手で、ヘテロ女性なら結構身に覚えのある人もいるであろう「ここで男に不自由してないフリしてかっこつけなきゃ」感をよく出していると思う。ただ、出てきた時から既に結構可愛いのが問題。噂が流れてから急に派手になるという展開なら、出てきた時はもっと地味な女の子に作るべきだったのではと思う。

 脇役陣はえらい豪華。超ブス作りにしたアマンダ・バインズが狂信的クリスチャンで純潔オタクのメアリアンに扮して結構怪演(高校のクリスチャン団体の描写はなんか怖いっていうか…はっきり言ってキモい。あからさまに悪意満々で描いてる感じ)。あとリサ・クドローがダメカウンセラー、トマス・ヘイデン・チャーチがエマを気にかけている英語の先生役。それからエマの超リベラルな両親にスタンリー・トゥッチパトリシア・クラークソンが出てて、この二人が出てくるとそれだけで笑える!ちなみに両親が超リベラルというのがこの映画を題材のわりにはカラっとしたコメディにしている一因かも(…まあちょっと描き方に疑問がなくはないのだが…)。