面白いんだけどさぁ…そんなに家庭が好きか?〜リサ・チョロデンコ監督最新作『ザ・キッズ・アー・オールライト』(The Kids Are All Right)ネタバレあり

 リサ・チョロデンコ監督の最新作で、アネット・ベニングジュリアン・ムーアレズビアンカップルを演じている『ザ・キッズ・アー・オールライト』(The Kids Are All Right)を見てきた。


 医者のニック(ベニング)とジュールズ(ムーア)は長年連れ添ったカップルで、人工授精で生んだ娘のジョニ(『アリス』のミア・ワシコフスカ)と息子のレーザー(ジョシュ・ハッチャーソン)もいる幸せな一家。ところが主婦やめて造園業を開業したいジュールズとそれが気に入らないブッチな大黒柱のニックの仲がだんだんぎくしゃくするようになる。息子のレーザーは悪友とつるんで難しい年頃、ジョニは大学進学で家を出ることになっている。レーザーとジョニが精子提供したポール(マーク・ラファロ)に連絡をとったせいで話はどんどんややこしいことになる。ニックはレーザーとジョニがポールを父扱いしてくっついていくのが面白くなく、ニックにかまってもらえないジュールズはポールと浮気。人間関係恐怖症だったポールは突然知った子供達や家庭にすっかり魅せられて人間関係がメチャクチャに…


 まあ最後はカップルが元の鞘に戻って「家族っていいよね」で終わる。笑いどころはたくさんあるし、ジュリアン・ムーアの年増のかわいさやアネット・ベニングの完璧なブッチ魂(というかマッチョなインテリ女性ぶり)をはじめとして役者の演技も大変すばらしいし、非常に出来のいい映画だとは思うんだけど、私はなんかつまんなかったなぁ…同性愛者の両親が子供を育てているフツーの家庭の悲喜劇を描くような映画が今アメリカやイギリスで求められているのは確かなんだろうし、そういう点ではこの映画は理想化も否定もせず、中年のカップルや難しい年頃の子供にありがちな問題をコミカルに描きつつ「家族の価値」路線にうまく落とし込んでいるってことで大変良くできましたなんだろうけど、基本的には郊外の上層中流家庭を描いたどうってことない家庭もので、両親がレズビアンという以外とくに目新しいこともないと思うのである。


 なんていうか私、富裕層のカップルが不倫して結局は元の鞘におさまるような話って全然惹かれないなぁ…それなら家庭が完全に崩壊する『レボリューショナリー・ロード』とか『アメリカン・ビューティ』とか、あるいはアホかと思うほど話が入り組んでいる『デスパレートな妻たち』とか、とてもシビアな『レイチェルの結婚』みたいな作品のほうがずっと面白いと思うんだけど。なんていうか…そんなに家庭が好きか?それはこういう映画を見たがる人は異性愛者にも同性愛者にもたくさんいるだろうし、とても良くできた価値ある映画であることは認めるが、少なくとも私はそんなに家庭は好きじゃない。


 チョロデンコは10年以上前に『ハイ・アート』っていうアート界を舞台にしたちょっととんがった作品を撮ってて、これはとても面白かったんだけど、そういう映画を撮ってた人が家庭ものを撮るようになるっていうのはここ十年でアメリカの同性愛者の権利運動がどんどん同性婚賛成とか養子縁組とかのほうにシフトしてるのに関係ある…のだかどうだかは知らないが、なんかとんがり度がすごく減っててつまんないないって感じ。


 ただ、一般的におすすめできる作品かどうかというとこれは間違いなくおすすめできる。出来じたいはすごくいいからしアネット・ベニングがいきなりジョニ・ミッチェルの真似をするとことかは確実に笑えるからだ。私が好きじゃないだけで。