ブーディカについての発表をきいてきた

 今日は大学の歴史セミナーでブーディカについての発表をきいてきた。タイトルは「『女王』ブーディカ?ルネサンスの女王としてのブーディカ」。

 内容としては先行研究をまとめてそれにちょこちょこ自分の知見を付け加える感じであまり独創的とは思えなかったのだが、ブーディカについてはまだ掘る余地がいっぱいありそうな気がするのでご紹介。

 とりあえずはウィキペディアを見て欲しいのだが、ブーディカは古代ケルトの女王で、ローマに対して反乱を起こし、最終的には敗北して亡くなったもののローマ軍を大変困らせたというまあブリタンニアウェルキンゲトリクスみたいな伝説の英雄である。

 で、ブーディカについてはタキトゥスが書いていたのだがルネサンス期まではあまり人気がなかった。ところが今日の発表によると、イギリスにルネサンスが訪れるとともに掘り出され、時の女王エリザベスに重ねられ、ブーディカに言及する詩や芝居なども書かれてナショナリズムの英雄としてそこそこ有名になった。エリザベス女王というのはほとんど信仰に近い尊崇を受けており、いろいろな女神や歴史上の女性にたとえられていたのだが、ローマと戦うケルトの女王というのは大陸のカトリックの国々と戦うエリザベスと重ねやすかったらしい。はたまたこの頃にはストーンヘンジが注目されるようになっていたので、古代ケルトの信仰とも絡んでストーンヘンジはブーディカに何らかの関係があるのではないかという仮説が出たりしたのだそうだ。しかし、今日の発表とは関係ないが、夫に耐え難い仕打ちを受けてもひたすら耐える貞女の鑑グリゼルダというおとぎ話のヒロインがいるんだけど、これもエリザベスと重ねられたらしい。なぜなら大陸のカトリック国からいじめられている純潔な女性であるから。人間がアレゴリーを作る能力ってすごいな…

 しかしながら本日の発表によると、ブーディカはルネサンス期にはちょっと流行った程度で、大きく流行るようになったのはヴィクトリア朝である。ブーディカもヴィクトリアも「勝利」という意味なのでこの二人の女王は重ねられ、詩が作られたり彫刻になったりした。エリザベス女王時代の小ブームはこのヴィクトリア朝の大ブームを用意したのだ…というのが今日の話のおおまかな趣旨。このへんのナショナリズム表象は掘るとまた面白いものがどんどん出てきそうなので、今後の成果に期待したい。

 余談なのだが、キングズクロス駅の下にブーディカが埋められているという与太話があるそうだ。えーっ、これハリー・ポッターとかですぐネタにできそうな与太話じゃない?ローリングはブーディカをハリー・ポッターに出せばよかったのに!