どうも、暴徒です〜ロンドン学費値上げ反対デモに参加したところ、「やかん詰め」封鎖されました

 えーっとイギリスでは現在、国内及びEUの学生の学費が三倍近くに上がるとかいう案(年間3000ポンド→9000ポンドくらいに値上げ)を政府が打ち出しており、学費値上げ反対デモが盛んに行われていて、前回のデモでは保守党の建物に学生が入って暴れて窓を壊すなどという燃えるロンドンになっている。留学生は直接この値上げの対象とはなっていないのだが、どさくさまぎれに授業料をあげられると本当に留学生も困ったことになるので私も本日ロンドン一斉デモに参加してきた…ところ、想像以上にすごいことになった。


 まあ、まずは12時にトラファルガー広場に集合した人々を見てください。こんな感じ。



 シャムロックの記章がついた帽子やマフラーをしたアイルランド系の学生団体がライオンにのぼるなど、楽しい雰囲気。あと、意外に高校生が多く、14歳くらいじゃないかというような小さい子もいたのにびっくり。日本で14歳とかの子が友達同士でデモに来るってあり得ないよね。

 イヌも参加。大人しくていい子でした。

 だんだんものすごい人だかりに。人が増えると、背が小さいのであまり写真もうまくとれなかった。

 この日一番写真にとられてた人気のプラカード。下品…だが笑える。

 プラカードの文句は"F**k Fees"が多かったのだが、みんな思い思いの単語を書いてたな…「ダンブルドア引き下がるとでも」というのとか、ハリー・ポッターネタなんかも結構あった。気に入ったのは「窓を壊したのはオレじゃない」で、これはもちろん前回のデモへの言及。あと"Don't Con-Dem me to a life of debts"も今の政権政党ふたつをうまいこと皮肉ってていいと思った。「イラクアフガニスタンの金を教育に!」系のプラカードも結構あってそれは別にいいと思ったのだが、裏も表も反戦メッセージだけで学費値上げ反対メッセージなしのプラカードはちょっとどうかと…関係ないよね。あと、サッチャーを引き合いに出したのもあったけどあまり気が利いているとは思えなかったな。かけ声は"No ifs, no buts, no education cuts"がメインで、たまに"Tory Scum"など。

 で、最初は口が悪いだけで非常に平和的な雰囲気でトラファルガーからホワイトホール方面へ行進、というかバラバラにたくさんの人(よくわからないのだが、5000人くらいとかいう話)が歩いていった。歌を歌ったり、トイレットペーパーを投げたり、うるさいけど愉快な感じ。ちぎって紙テープのかわりに投げるのはともかく芯ごと投げるのはやめてほしいと思ったが…。

 ホワイトホールでしばらくデモをしたあと、自由民主党(Lib Dems)事務所前まで歩いていってデモという話だったのだが、なんか前方が停止して移動しなくなったのでここで止まって抗議活動をするのかと思い、後ろのほうでうろちょろしていた…ら、なんかかなり遠くのほうでマスクをつけた若者数人が警察車両とおぼしき車をステージがわりにし、上に乗っかって踊ってるのが見えた。

 しかしながらデモがあるというのにこんな官庁街に警察車両が無人でうち捨てられているのはおかしいし、周りにはいっぱい警察がいるのに車がとられてあわてているような気配は全くないし、遠くから見るとちょっとかなり古そうで現役の警察車両とはあまり思えなかったので、おおかた誰かが自分で古いバンを持ち込んでデモンストレーション用にPoliceとか落書きして皮肉でもかましているのだろう(イギリス警察のバンは"Police"と大きな青文字で書いてあるだけだし、イギリス人はアホなパフォーマンスにすごい労力をそそぐ傾向があるから)、ほっときゃ自然におさまるであろうと思い、あまり気にしなかった。

 ところが私がうろちょろしていた場所で工事用の金属フェンスが倒され(最初は寄りかかってくる人垣につぶされたというような言い方が正しいような感じで意図的に倒したのではないかも)、フェンスがバス停に衝突し、ちょっとやな雰囲気に(このへんで写真撮影をやめた。電池が少なくなっていた上、こういうところで撮ると後で何か証拠に利用されないとも限らないので)。

 そんなわけでちょっと遠くのほうに待避し、音楽がかかっていたり女の子が多かったりする平和そうなシマ(女性が平和的だと言いたいわけではないが、毛糸の帽子かぶってサンドイッチを食ってる女子が危険である確率は低かろう)にくっついていることにしたのだが、その後どうも中心のシマでは行動がエスカレートし、頭に血が上ったやつ数人が車とフェンスとバス停を意図的に破壊したらしい。まあしかし物にあたるだけで身の危険を感じるようなことはなく、フランスのデモではいたるところで車が燃やされるという噂をきいていた私はまあ別にロンドンもこんなもんなんだろうと思ってそうは気にしていなかった。人が怪我をしたという話はきかなかったし。

 で、雰囲気も悪くなってきたし、私はその後大学でセミナーがあったし、この人混みだと早めに行動したほうがいいだろうと思い、二時半頃にトラファルガー方面に戻ろうとしたところ、なんと盾を持った首都警察の警官と警察のバンがトラファルガーへの道を完全封鎖。出してくれる気配が全くない。ウェストミンスター寺院方面への通路や二つある小さい脇道も全部まわったのだが、全て警官により封鎖されている!これでは出られない。

 仕方ないので中に戻って、破壊されたバス停に近づいてみた。ガラスが散乱していて危険なのだがほうきもちりとりも何もないので掃除するわけにもいかないし、女の子たちが集まり、掃除するかわりに大きい破片だけ拾って記念品としてお持ち帰り。私ももちろんそうした。

 こういうふうに四方を警官が封鎖してデモ隊を缶詰にする方式は"kettling"「やかん詰め」と言われているそうで、最初のほうはみんなあまり気にせず音楽をかけて踊ったりしていた。アホどもの破壊活動もそのうちやんだみたいだし、一時期のやな雰囲気もなくなった感じ。ただ動けなくて寒さをしのぐこともできないので、みんないたるところでプラカードを裂いてたき火を始めた。私もたき火にあたらせてもらったのだが、まさにLondon is burningだ。

 しかしなんとこのやかん封鎖、一時間くらいで終わるかと思ったら火が落ちても継続され、いっこうに外に出られる気配がない。全く情報もないのでぼちぼち携帯ニュースサイトなんかをチェックしていたのだが、17時すぎるとBBCの速報サイトも一時休止になって、私のヘボいノキア携帯ではツイッターの#demo2010タグ以外ニュースが入らなくなってしまった。噂によると一時期ストランド方面まで閉鎖が広がっていたということで(本当かはわからないが)、そうなるとストランドにあるカレッジも表玄関からは入れなくなるからセミナーには絶対間に合わないなとあきらめた。

 夕方になると気温が零度近くまで下がり、やかん封鎖のせいで寒くて空腹なのに出られないデモ隊は殺気立ち始めた。外に出してくれと訴える学生と警官の小競り合いも二度ほど見かけ、怒ってプラカードの棒を警官隊のほうに投げるヤツなども出てきたのだが、この時警官隊と衝突していたのはさっき車の上に乗っていたような連中とはたぶん無関係のさっきまではごく平和的だった人たちで(もうちょっとかっちりした服装をしてた)、棒を投げるのはよくないがちょっとこの警官の態度はひどいなと思った。車やバス停を壊した連中は逮捕せず、そのかわりにとくに暴力行為は行っていない一般市民を千人近くトイレも水もない零度近いところで野ざらしのまま何時間も閉じこめておき、出たいと強硬に主張したら突き飛ばすとかってひどいと思う。このビデオを見て欲しいんだけど、ひどく嫌な感じだった。

 四時半くらいになると、千人以上いると思われるデモ隊がそれぞれのやかん封鎖の封鎖線前に集まって"Let us out!"と叫びながら封鎖解除を要求しはじめたので、私ももちろんそれに加わった。私がいたホワイトホール〜トラファルガー側の封鎖線は高校生などが多く、音楽もあるので雰囲気は悪くなかった(こういう時音楽の力はすごい。アフリカンの学生たちがラップにあわせて踊って周りの人を楽しませていたし、みんなで"Always Look on the Bright Side of Life"を歌ったり、クラッシュの"London is Burning"を聴いたりした)。封鎖している警官のほうも一人一人はわりあい親切で、最前列の人が「これいつおわんの?」ときいたら「それが、オレにもわからんのよ」と笑顔で応えてくれたりして、意外にフレンドリー。しかしながら遅くなるにつれてニュースを見た親御さんとかが高校生たちの携帯に電話をかけてきて、電話口で「暴力的なことは何もないのに、警察が出してくれないの」とか、「高校生や退職教員なんかもいるのに千人くらいホワイトホールに缶詰なんて、全く違法じゃない?」などと文句を言う人が続出。私も全く同感。

 5時半くらいに「そろそろ解除できる見通しだ」と警察の人が説明してくれたのだが、結局トラファルガー側封鎖線で解放が始まったのは8時くらい。私は8時半くらいに解放され、写真も名前も記録されることなく封鎖線から出ることができた(何も悪いことをしていないのだから当然だ)。解放される時に左足の膿疱腫になってるところを誰かに蹴られた(すごく混んでたので相手も気づかなかったと思う)みたいで、歩いて血の流れがよくなるとものすごい痛みが走り、しばらく足を引きずってチャリングクロス駅まで歩く羽目に。左腕にもアザができてたし、このやかん封鎖っていうのは背の低い人にはほんとに危険だと思う。狭いところに多数の人が詰め込まれるので、背の高い人は背の低い人に気づかず押しつぶしたり蹴飛ばしたりしてしまう。なんでも封鎖はその後数時間続いたそうで、明日学校のある高校生を含む数百人が足止めされたとか。ひどいな…

 で、家に帰ってニュースを見たら、なんかデモ隊の一部が暴徒化したことになってる…んだけど(これとかこれとかこれとか)、暴徒化したのはほんと数人で大多数は平和的だったし、「暴徒」のほうもものをぶっ壊しただけで人に対して暴力をふるった人はほとんど見かけなかった(まあたぶん私がヨーロッパのデモはすごい、車壊すのなんか日常茶飯事という話をきいていたせいであまり動じなかったのもあると思うが)。封鎖が始まってからは警官との小競り合いを見かけたけど、寒くなった後はもう老若男女みんなかなり精神的に参っていたので(こちらの記事こちらの記事が実感に非常に近い)、封鎖後の破壊行為(バス停の部品をはがして燃やすなど)はたぶん警官がやかん封鎖をしなかったら起こらなかったと思う。

 なんかあまりまとまりのない記録になってしまったのだが、ホワイトホールにいた警官は一人一人はおおむね親切だったけど、このやかん詰め封鎖はひどい戦略だと思う。両手で数えるほどの過激派をさっさとつかまえることをせず(警察が来ないもんだから高校生が車の破壊活動をやめさせようとしたりしてたらしい。こちらの写真は必見)、何もしてない市民を千人近く拘束するとかひどい。

 あと、車の破壊が問題になっているようなのだが、この車の出所がよくわかってないらしい。こちらの記事によると、ナンバープレートがなく"Police Aware"ステッカーが貼ってあり、また車の型が今の警察車両より古いのでこれは廃車にされた車だという説もあるそうだ。警察が壊させるために置いたというのは陰謀論っぽいと思うのだが…ひょっとして廃車にされた古い型の警察車両を民間人が払い下げてもらって、それをわざわざ破壊するデモンストレーションとかがあったりするの?アメリカは古い型のパトカーなら払い下げがあるんだっけ?

 …ちなみにデモに参加したのはいいんだけど、たとえ学費値上げ案がなくなったとしても留学生の学費はあがる一方で、留学生の人数を減らすとかいう案もあるらしいので、うちら留学生はどっちに転んでも針のむしろです。