ジンバブエ発二人芝居、オーヴァルハウス座『ハムレットの狂気』(Kupenga Kwa Hamlet)

 オーヴァルハウス座で『ハムレットの狂気』(Kupenga Kwa Hamlet)を見てきた。去年バースで『ヴェローナの二紳士』をやってとても面白かったジンバブエの二人芝居ユニットが新しく持ってきた演目。相変わらず非常にエネルギッシュな舞台ですごくオススメ。

 この男性二人のユニットは"Two Gents Productions"「二紳士企画」という名前で宣伝してて、私はてっきり去年バースでやったやつを再演するんだと思っていたらなんと新しい演目ということであわてて行ってきた。まぎらわしいな…『ヴェローナの二紳士』と、二人芝居の劇団だっていうのをかけてるんだろうけど。

 上演スタイルは前回と同様、ダイジェスト版みたいにしたシェイクスピアの戯曲を二人の男優がとっかえひっかえいろいろな役になりながら上演するというもの。まともにやると四時間近くかかる『ハムレット』を、いわゆる「バッド・クォート」(現在の上演ではほとんど用いられることのない短い不完全な版。少人数キャスト用のダイジェスト版か、あるいは役者の記憶に頼って台詞を再現した版であろうと言われているが詳細はわかっていない)をもとに一時間20分くらいにしているのだが、それでも筋がわかってしかもちゃんと面白いとこだけは取り出してきてるのがすごい(この点、話を切りすぎてあまり面白くなくなってた宮城聡版『ハムレット』より全然いい)。

 短いながらも結構リアルだなと思ったのは、『ハムレット』をアフリカの部族社会の話みたいにしているところである。地名や名前なんかはシェイクスピアそのまんまなのだが、ジンバブエの民謡(だと思う)なんかをふんだんに取り入れ、中世デンマークの寒々しい宮廷を近代アフリカの豪族たちの陰謀渦巻く宮廷へとうまく移し替えている。なんというかネパールなんかでは最近でも王子様が家族を暗殺する事件があったりしたし、旧宗主国や近隣の大国の圧力を気にしないといけないアジアやアフリカの部族社会の宮廷では今でもこういう事件があってもおかしくないかもという気になる。

 アフリカの話っぽくなっているとはいっても過度にエキゾティックにはなっておらず、低予算を逆手にとったシンプルな感じなのもいい。衣装はなんかつなぎみたいな簡素なもので、派手な小道具も使わないし(全編通して使用する小道具はゴザとアフリカの簡単な楽器だけ)、役者の力だけで話を前に進める感じ。役者のデントン・チクラとトンデライ・ムニイェヴュ(←全く発音に自信がない)は相変わらず大変エネルギッシュで上手いし、とくにトンデライはすごく声がいい。一度にたくさんの人が舞台にあがっているはずの場面ではお客さんを登場人物に見立てたり、劇中劇の場面ではお客さんを舞台に上げてお客さんの役(?)をしてもらったり、客いじりもうまい。

 欲を言えば、去年の『ヴェローナの二紳士』はあまり上演されない芝居を新しい解釈でやるっていうことで非常に新鮮だったのだが、この『ハムレット』は役者のしっかりした演技を見せることにかなり重点を置いた作りになっていて、新解釈で驚かせるという部分が少なくなっているのが惜しいかな…まあ『ハムレット』はよく上演される芝居で『ヴェローナの二紳士』に比べると明らかに戯曲自体の出来がいいので、普通にやっても面白いだろうと考えたんだろう。
 
 しかしジンバブエは経済も最悪になっているしエイズがものすごく流行っていて健康面でもつらそうだし、言論の自由もロクにないみたいで大変な国だが、今まで見たジンバブエ関係の芸術で外れだと思ったものは一切ない。いいのだけ選んでイギリスに輸出しているからかもしれないが、ジンバブエ支援ってことでこの劇団を日本にも呼んだらいいんじゃないかな…二人芝居だから予算かからないし、日本の演劇ファンにも受けると思うんだけど。