いやー全然ダメだったねぇ〜ラウンドハウス座、RSC『アントニーとクレオパトラ』

 ラウンドハウス座でロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの『アントニーとクレオパトラ』を見てきた。

 で、一言で言うと全然ダメな上演だったな…イギリス来てから見たシェイクスピアの中で一番ダメだったかも。なんと今回が初めて生の舞台で『アントニークレオパトラ』を見る機会だったのだが(この芝居は日本ではほとんど上演されない)、シェイクスピアの戯曲の中でも一番好きなものなのにはじめて見た公演でこれはないや…という感じ。

 あらすじは以前に私が書いたこちらを見てもらうとして、今日見た演出は役者の衣装なんかを全部現代のものにした現代劇タッチのものだった。アントニーとその部下には軍服を、シーザーたちにはビジネススーツを着せ、武官と文官の政治対立のような感じにしている一方、アントニークレオパトラは植民地官僚と現地の女っていう感じになっている。アントニー役はダレル・デシルヴァ、クレオパトラ役はキャスリン・ハンター。


 で、どこがダメかって話なんだけど、まず長い芝居なので結構台詞をカットしてるんだけどカット箇所の選び方がちょっとおかしい。アントニーがオクテーヴィアと結婚してからエジプトに帰るまでがかなりバチバチ切られていて、原作戯曲よりもアントニーがどうしてエジプトに戻ろうと決意したのかがわかりにくくなっている。それから最後の場面で道化が蛇を持って入ってくるところはまるまるカットされてたな…あれは好みの問題だし道化役ができる役者がいないとかいろいろあるんだろうが、全体的にファルス的な演出をしようと試みているのに道化の場面をカットしたらちゃんとしたファルスにならんだろう(そのファルス的な演出もあまりうまくいっているとは思えなかったが…客席の笑いも結構少なかった)。


 あと、あとで見た劇評でも指摘されていたのだが、デシルヴァとハンターの息が全然あってない。「ケミストリ皆無」とか「二人で出てくるとダメ」とか言われているが、まさにそういう感じ。まあキャスリン・ハンターが私の好みじゃないというのもある気がするし(クレオパトラにしては小柄すぎると思ったし、あと低くてしゃがれた声でボソボソ言う台詞回しにも違和感が…)、非常に見づらい位置で見たせいで真正面から表情なんかを見れなかったというのもあると思うのだが、それにしてもこの二人が狡猾な政治家でかつ泥沼の愛に耽溺する運命の恋人同士であるとは全然思えず、性格の不一致に困っているそこらの中年の夫妻みたいに見えた。二人とも頑張ってるのになんでそうなるんだって言われたらちょっと言語化できないのだが、まあそれこそケミストリってやつだよねぇ…イアロスとアントニーのほうがよっぽど息があってたなぁ(イアロス役のケイティ・スティーヴンズは上手だったと思う。死ぬところとかほんと迫真の演技で、小姓役に女優をキャスティングしたのも正解だと思った)。


 と、いうことで、野心的なプロダクションだとは思うのだが主にこの二つの欠点が全編にわたって炸裂したせいで全然面白くなかった。しかし、この芝居ってやっぱり上演するのがかなり難しいんだな…主役二人に負担がかかりすぎるし、なんとかして上手なベテラン役者を二人連れてきても息があわないとさっぱり面白くないもん。『ロミオとジュリエット』は若くてカワイイのを二人連れてくれば「時分の花」で乗り切れて結構なんとかなるのだが、『アントニークレオパトラ』は題材は似ていてもそうはいかないなぁ…