悪くはないがもっとワルくなるべきだった〜キャンプ映画好き必見『バーレスク』


予告編↓

 12/31に『バーレスク』を見てきた。私はとても面白かったと思うのだが、もっとぶっ飛んだ話にすべきであったという感じもする。


 既に日本公開されているし、お話は超単純でこれでもかというほど型どおりのバックステージもの。田舎育ちのアリ(クリスティーナ・アギレラ)が、テス(シェール)の経営するハリウッドのバーレスクラウンジで働きはじめ、ショーの歌姫としてスターになるまでを描く。


 基本的にこの映画はアギレラとシェールが主演でバーレスクショーがテーマとか言うことで、おそらくあてこんでいる客は女性とゲイ男性。と、いうことで、意図的にキャンプで「悪い」映画を目指している。完全なジャンルムービーで(たぶんカンフー映画とかに近いものだと思う)、その約束事に乗れない人はお断りって感じ。ストーリーはわざと徹底的に浅くしてあり、アリはたいした苦労もなくスターになるし、ヒロインの恋愛とかクラブの売却問題とかも予定調和的にハッピーエンドになる。この手のバックステージもののクリシェは全部詰め込んであり、ブロンドのアリにブルネットの売れっ子ショーガール、ニキが嫉妬するとか、テスをゲイのシェーン(スタンリー・トゥッチ)が忠実に補佐するとか、婚約者のいるバーテンのジャックと金持ちで浮気性のマーカス(『グレイズ・アナトミー』でやっぱり浮気性のマーク先生を演じてるエリック・デーン)の間でアリが揺れるとか(もちろん最後は金がなくても優しくて音楽が好きなジャックとくっつくわけだが)、おなじみのキャラクターとモチーフがびっしり詰め込まれてお客さんに安全運転の快楽を提供。これにギンギンギラギラ派手派手なショーと、アギレラやシェールの迫力たっぷりの歌がくっついてくるわけである。これで楽しくないわけがない。


 おそらくは客層を意識して、この映画ではヘテロセクシュアル男性の存在感というものが全然なく、活躍するのは女とゲイばっか。バーレスクショーの映画なもんで舞台で踊るのはたいてい女、あと性別とか年齢とかいろんなもんが不明のステキなアレクシス(アラン・カミング)だけで、お客さんすら半分くらいは女である。ヘテロ男子が舞台で声をあげる隙間はない。あととりあえず台詞が結構ちゃんとあるヘテロ男子のキャラクターというのがマーカスとジャックしかいないのだが(ヴィンスは台詞が少なくて存在感ゼロ)、マーカスは浮気性でクラブを買い叩きたがっている金持ちの嫌なヤツ、ジャックは作曲してるのに恥ずかしくて発表できないというどこの乙女かというようなシャイなヤツである一方、婚約者がいるのにアリによろめいてしまうというダメ男である(このダメ男を許してやることでアリの器の大きさがわかるというラスト)。そしてこのヘテロ男どもは女たちがバーレスクをやってることに何もうろたえず、スターと付き合うことにむしろ喜びを感じている(ここ、重要)。


 一方女どもは大変元気である。この映画においてバーレスクショーのパフォーマーたちは一切社会的スティグマを負わされておらず、アリはクラブに入った瞬間バーレスクに憧れ、肌を見せるのが嫌だとかそういうことはつゆほども思わず、ただただこの舞台でスターになりたいと思い始める。舞台を支配しているのはテスという宇宙の母みたいな女だし、それを助けているのはゲイのシェーン。パフォーマーたちはみんな自信に溢れており、男性の目ではなく自分の創作意欲を満たすためにパフォーマンスをしている感じで、他の映画では描かれそうなショーガール同士の脚の引っ張り合いとかもほとんど描かれない(アル中気味のニキもすぐ後悔してテスに謝りに来る)。このあたりは、もともとは男性がこっそり通うものだったストリップショーがだんだんそうではなくなり、今では女性やゲイが(少なくとも欧米では)ネオバーレスクのファンのかなりの部分を占めるようになっていることを反映しているんだろうと思う(この間のロンドンエロティカでディータのバーレスクショーを見たときはやっぱりファンの大部分が女の子だったもんねぇ)。


 …しかしながら、女どもがやりたい放題するすっとんだ映画なのかと思いきや、この映画はちょっと穏健すぎるように思う。バックステージものとして話がきちんとまとまりすぎているようにも思うし、シェールとアギレラの芝居が思ったより「人情喜劇」志向で破綻がない。あと、最大の問題はバーレスクがテーマの映画なのにショーの振り付けが大人しすぎるということ。ネオバーレスクは基本ストリップティーズ(どっちかというとティーズ)が中心で、チラ見せを駆使した過激で過剰に色っぽい振り付けがメインなのだが、そういうのが見られたのはアギレラが真珠だけ身につけて踊るところだけだったと思うな…とりあえず「バーレスクというのはオリジナリティがあってリスペクタブルなパフォーマンスなんですよ」ってことを示したかったのかもしれないが、明らかにレイティングを意識したと思えるこの振り付けではかえってネオバーレスクの面白い点があまりわからないんじゃないかなと思う。うちも生でディータを見たのはこの間が初めてで、あとは映像ばかりだからえらそうなことは言えないが、生で見たときはもっとずっと良識をからかうような過激な芸術だと思ったなぁ。

 と、いうことで、この映画は面白くてミュージカルやバックステージもののファンなら必見だが、キャンプカルト映画になるにはかなり物足りない作品だと思う。まあまあの映画だったが、うちはもっとワルい映画が見たいね!とはいえ、アメリカでは一部でかなり不評らしいけど全然見る価値はあると思うので(『ツーリスト』の10倍はよくできてる)、オススメ。