オールドヴィック座、ジョルジュ・フェドー『耳に蚤』〜戯曲が決定的に古くなってると思った

 オールドヴィック座でジョルジュ・フェドーの喜劇『耳に蚤』を見てきた。

 フェドーのことは全く知らなかったのだが、なんでもフランスでは著名な劇作家らしい。ベルエポックの人気作家だったそうで、フランスでは作品が何度も映画化されたりしているそうだ。



 一応翻訳は出ているようなのだがたぶん誰も読んだことないだろうからあらすじを書いておくと、舞台は1900年頃で、主人公は保険会社の重役シャンドビズとその妻レモンド。レモンドは昔は情熱的だった夫が最近突然セックスしてくれなくなったので夫の浮気を疑っており、仲のいいルシアンヌと夫の浮気を確かめる作戦を練ることに。二人してニセの匿名ラブレターを作って夫をラブホテル「金鶏」(←19世紀末のパリにもラブホのようなものがあったらしい)に呼び出し、浮気を期待してやってきた夫をレモンドがしめあげる作戦。
 ところが手紙を受け取ったシャンドビズは妻一筋でそんなにモテるわけでもない自分にこんな手紙がくるわけないと考え、手紙は友人である色男トゥルネル(レモンドに惚れてる)あてであろうと思いこむ。トゥルネルが意気揚々とホテルに出かける一方、妻を愛しているのに精力が減退して困っているとかかりつけのフィナシュ医師に相談するシャンドビズ。そこにルシアンヌのスペイン人の夫カルロスが尋ねてくるが、ふとしたことでラブレターを見かけたカルロスは妻の筆跡だと気付いて激怒。妻と不倫相手を皆殺しにするため銃を持ってホテルに向かう。
 トゥルネルはホテルでレモンドを見つけ、これ幸いと言い寄る…が、レモンドは堅く拒絶。ところがホテルにシャンドビズと生き写しのポーター、ポッシュ(シャンドビズと二役で演じる)がいたことで事態はおかしなことに。トゥルネルとレモンドはポッシュをシャンドビズと思い込み、浮気はしていないと必死に言い訳。事態をたしかめにきたルシアンヌや、言語障害のあるシャンドビズの甥カミーユ、フィナシュ先生などもホテルに現れてホテルはごったがえし。さらにはカルロスの剣幕を心配してシャンドビズまでやってきたのだが、ホテルのマネージャーはシャンドビズをポッシュと間違えて無理矢理ポーターの制服を着せ、雑用をさせる。最後にカルロスが到着、ホテルの客を全員殺すと息巻いて…
 そのあと、全員がシャンドビズ邸に戻り、ポッシュとシャンドビズがそっくりであることが判明し、なんとか誤解がとけ、シャンドビズがレモンドに「今晩は自信を持って一緒に寝よう!」みたいなことを言っておしまい。



 …と、いうわけで、あらすじだけだと全く大人向けの爆笑エロばなしなのだが、高校生らしい集団が社会見学で見に来てた。マチネですごくすいてた。

 で、感想なのだが、戯曲自体が決定的に古くなってると思ったな…とくにカミーユの描写が今だと全然笑えないのである。なんてったって『英国王のスピーチ』がこんなに評価されてる時代だし、言語障害の人の話し方をネタにするっていうのがちっともおかしくないというかむしろ不快なんだけど。あと、スペイン人のステレオタイプな描写も、1900年頃にはおかしかったのだろうが今だと陳腐で面白くない。

 あと、なんだかんだでベルエポックの風俗にこだわっている演出もあまり良くないかもという気がした。原作からして風俗喜劇だから世紀転換期のパリの風習にのっとって書かれているはずなのだが、「精力減退に悩む夫と、もう夫が自分を愛していないのではと心配する妻」というのは現代でもフツーにありそうな話なので、もっとセットや衣装は現代的にしたほうがいいのでは?それから、妻と夫は釣り合った年齢に作るべきだと思ったな…若くて世間知らずの妻が年上の夫について一人であたふたするとかってそんなに面白くないよね。中年の妻がまるで小娘に戻ったみたいに同じく中年の夫の愛を心配するというほうが味が出ると思うのだが。

 そんなわけでかなり不満のあるプロダクションだったのだが、主演のトム・ホランダーは頑張っていると思ったし、ホテルでのドタバタはやっぱり笑えたな。まあそれでいいか…