ブッシュ座『モーメント』

 ロンドンの有名なオフウェストエンドシアター、ブッシュ座で『モーメント』を見た。アイルランドの劇作家、ディアドラ・キナハンの作品で、ダブリンを舞台にした家族劇。

 話は疎遠になっていた息子ナイアルが新妻ルースを連れてダブリンにいる家族のもとに久しぶりに帰ってくるというものなのだが、なんとナイルには妹ニーヴの親友ヒラリーを殺した過去があった。そんなわけで里帰りは無事にすまず、悲惨なことに…という暗い話。狭い劇場にダイニングキッチンのセットをしつらえ、家族が電気ポットでお湯を沸かしてお茶を入れたり、飲み食いしたりしながら話が進む。

 最初のほうはやや役者の芝居が堅くてちょっと…と思ったが、途中からどんどんよくなったと思う。息子べったりの母、母親の面倒をひたすら見る看護婦みたいな役割を押しつけられてそれを甘んじて受けている末娘のキアラ、ナイアルのことを全く許せないニーヴ、はたまた事情がよくわからずできるだけ穏便にことをすませようと頑張るがあまりうまくいかないキアラの夫とニーヴの彼氏、それぞれの気持ちの動きがなかなかにリアルで、ははあこれはありそうだな…と思わせるところが多々あった。こういう暗い家族劇は一歩間違えると陳腐になりそうだが、適度にブラックユーモアを入れてうまく処理している感じもいい。オープンエンドなところも考えさせられたなぁ…

 全体としては、映画『レイチェルの結婚』をもうちょっと重くした感じだと思うのだが、こういう家族劇って最近流行ってるのかね?しかしこの作品を映画にするとちょっと暗すぎるだろうし、人物が目の前で実際に動いてくれる舞台劇でやったほうが格段に効果があがる作品だと思った。


 …しかしながらうちはなんで二週間に二本も登場人物が舞台上で嘔吐する作品を見ねばならんかったのかねぇ。この間見た『大人はかく戦えり』アイルランドプレミアにもそういう場面が…空前の嘔吐ブームなのか?!