触感に訴える演出が功を奏した感じ〜ローズ座『アントニーとクレオパトラ』

 バンクサイドのローズ座で『アントニークレオパトラ』を見た。すごく単純化された公演でカットも多いし政治的な側面はだいたい無視されていたように思うが、前に見たRSCの公演より全然良かった。

 とりあえずカットの箇所が適切。おそらくは恋愛悲劇にする目的で政治的な場面などをばんばんカットしたんだと思うのだが、2時間にきちんとおさまって話がわかるよううまくやっている。カット箇所が意味不明だったRSCとは大違い。

 あと、ローズ座で大きい舞台装置なんか使えるわけないということで、いかにもフリンジらしく人を少なくしてほとんど道具も使わず、人物には現代の服を着せるというのもかえって想像力をそそるところがあって良かったと思う。『アントニークレオパトラ』はあまりにもスケールがでかい話で、ヘタに小道具なんかでごまかそうとするとかえってショボくなるに決まっているので、何もないんだから客は想像しろ!というほうがこの手の戯曲ではうまくいくと思う。

 史劇らしい見せ場を少なくして「偉大なカップルの泥沼の中年愛の物語」みたいな方針にしたのはちょっと疑問もあるが、役者の演技がたいへん良く、とくに主役の二人の息がよくあっているのでこれはこれで全然面白いのではという気がした。赤いドレスにブロンドの小柄でグラマーなクレオパトラ(サラ・ジェーン・バトラー)と、大柄な身体でちょっとスーツを崩して着込んだかっこいいおじさま風中年軍人アントニー(フィリップ・スコット=ウォレス)という顔合わせなのだが、いかにも別れようと思っても別れられない腐れ縁の中年の恋人同士という感じで、二人が出ている場面は非常にセクシーだったと思う(前のRSC公演がさっぱりダメだったのでちょっとひいき目になってしまっているのかもしれないが…)。最後、アントニーの亡霊?がクサリヘビとして出てくるところの演出には賛否ありそうだが、全体に恋愛悲劇として演出されているので私は全然いいと思った。


 しかし、前に見た『エドワード二世』もそうだが、ローズ座はあんなに小さくて(史跡になってるせいで拡張できない)客と舞台が非常に近い空間なので、うまい役者といい脚本さえあれば客の触感にダイレクトに訴えるセクシーな演出が可能なのがいいと思う。役者の表情が非常によく見えるし、あとアントニークレオパトラを抱き上げた時にアントニーの身体にかかるクレオパトラの髪の揺れとか、アントニークレオパトラの手を握ってなで回す手つきとか、そういう細かい身体の動きがまるで自分が体験しているかのように感じられるのがいい(…これをヘタな役者がやると失笑ものになるのだが)。