ロックンロールにおける保守主義とは何か?

 えーっ、さっきワム!の曲の中でも一番好きな「フリーダム」を聞いてて、この曲ってワム!の中でも一番保守的でかつ皮肉がきいてるよな…と思ってた。なんといっても歌詞が「キミに自由であって欲しくない/ちゃらちゃら遊び回るのは嫌なんだ」という内容である。


 …で、恋人が遊び回ってて困っているという内容のこの歌を歌っている本人のジョージ・マイケルはちゃんと連れ合いがいるのにしゅっちゅうものすごい場末の発展場みたいなところでつかまっているので(…別に発展場に通うのが悪いとは思わないのだが、スーパースターなのに場末の発展場をうろつくってなんか想像を絶するうらぶれた趣味だよね)、たぶんこの歌は自分のことを歌っているんではないかと私は思っているのだが、それはともかくまあこういう保守的な歌を歌うのがワム!がコアなロックファンに好かれない理由のひとつ…とか思った、ところ、「いや、『ナショナル・レビュー』の『保守的なロック50選』っていうやつがあるじゃん!」と思い出した(『ナショナル・レビュー』はアメリカの保守系雑誌の中でも非常に影響力のある刊行物)。
 

 『ナショナル・レビュー』が選ぶ保守的なロックの名曲50選
1. “Won’t Get Fooled Again,” by The Who.
2. “Taxman,” by The Beatles
3. “Sympathy for the Devil,” by The Rolling Stones.
4. “Sweet Home Alabama,” by Lynyrd Skynyrd.
5. “Wouldn’t It Be Nice,” by The Beach Boys.
6. “Gloria,” by U2.
7. “Revolution,” by The Beatles.
8. “Bodies,” by The Sex Pistols.
9. “Don’t Tread on Me,” by Metallica.
10. “20th Century Man,” by The Kinks.
11. “The Trees,” by Rush.
12. “Neighborhood Bully,” by Bob Dylan.
13. “My City Was Gone,” by The Pretenders.
14. “Right Here, Right Now,” by Jesus Jones.
15. “I Fought the Law,” by The Crickets.
16. “Get Over It,” by The Eagles.
17. “Stay Together for the Kids,” by Blink 182.
18. “Cult of Personality,” by Living Colour.
19. “Kicks,” by Paul Revere and the Raiders.
20. “Rock the Casbah,” by The Clash.
21. “Heroes,” by David Bowie.
22. “Red Barchetta,” by Rush.
23. “Brick,” by Ben Folds Five.
24. “Der Kommissar,” by After the Fire.
25. “The Battle of Evermore,” by Led Zeppelin.
26. “Capitalism,” by Oingo Boingo.
27. “Obvious Song,” by Joe Jackson.
28. “Janie’s Got a Gun,” by Aerosmith.
29. “Rime of the Ancient Mariner,” by Iron Maiden.
30. “You Can’t Be Too Strong,” by Graham Parker.
31. “Small Town,” by John Mellencamp.
32. “Keep Your Hands to Yourself,” by The Georgia Satellites. 33. “You Can’t Always Get What You Want,” by The Rolling Stones.
34. “Godzilla,” by Blue öyster Cult.
35. “Who’ll Stop the Rain,” by Creedence Clearwater Revival.
36. “Government Cheese,” by The Rainmakers.
37. “The Night They Drove Old Dixie Down,” by The Band.
38. “I Can’t Drive 55,” by Sammy Hagar.
39. “Property Line,” by The Marshall Tucker Band.
40. “Wake Up Little Susie,” by The Everly Brothers.
41. “The Icicle Melts,” by The Cranberries.
42. “Everybody’s a Victim,” by The Proclaimers.
43. “Wonderful,” by Everclear.
44. “Two Sisters,” by The Kinks.
45. “Taxman, Mr. Thief,” by Cheap Trick.
46. “Wind of Change,” by The Scorpions.
47. “One,” by Creed.
48. “Why Don’t You Get a Job,” by The Offspring.
49. “Abortion,” by Kid Rock.
50. “Stand By Your Man,” by Tammy Wynette.

 ビートルズストーンズ、ディラン、キンクスなんかが入っているのは面白いと思うのだが、こういうリストはやっぱりお国柄が出るねぇ…2位が「タックスマン」なのだが、税金を払いたがらない=保守、というのはアメリカならではだと思うし、あとラッシュがリバタリアン的だということで保守主義的に高評価らしい。日本だとリバタリアンは保守に入らないよね?入る?

 あと、これを真似て保守系のブロガーが作った「保守的なロックもう50曲」っていうのがあるのだが、これはさらにアメリカ的で、「個人の自由」を訴える曲はだいたい保守的と見なすということになっている。個人の自由を訴えるビースティ・ボーイズの"Fight for Your Right (to Party)"やラスカルズの"People Got To Be Free"はもちろん保守ソング。個人主義+禁欲(…というか引きこもり+自慰なのでは…)ということでビーチボーイズの"In My Room"が高評価だし、教育の自由化(?)を訴えるピンクフロイドの"Another Brick In The Wall, Part II"も評価高い。あと資本主義をほめる歌は全部保守になるのでマドンナの"Material Girl"やTLCの"No Scrubs"も高評価である。しかしながら、禁欲や中絶反対を訴える伝統的な保守主義リバタリアン的な歌が両方リストに入っているあたり、ちょっと統一感に欠ける。


 …まあしかしこういうのを見るとやはり音楽は作り手の手を離れた瞬間に完全に聴き手のものになるんだって気がするよね。私としては上のリンクにあるような保守派の解釈戦略は半分くらいは皮肉をあえて真に受けるダメダメな解釈戦略(とくにヴィレッジピープルとか…)だと思うんだけど、たまに私の嫌いな曲が嫌いだと思った理由でまさに保守的ロックだと言われていて頷いちゃうところもある。

 ちなみに上のリストからするとキンクスは保守にも人気のようだが、キンクスは非常に「保存」に関してオブセッションを持ってるバンドだと思うので保守に人気あるのは当たり前って気もする(キンクスの保存願望についてはアーロン・クーニンの"Shakespeare's Preservation Fantasy"っていう2009年のPMLAに載った論文で枕として触れられてるので、キンクスファンは見るといいかも)。