プリントルーム、テネシー・ウィリアムズ作『地上の王国』〜人殺しが起きない『サイコ』、あるいはセクシーなゴリラ的なるもの

 近くにあるプリントルームというちっちゃい劇場でテネシー・ウィリアムズのあまり上演されない戯曲『地上の王国』(Kingdom of Earth、別名:"The Seven Descents of Myrtle")を見てきた。こんなのやってるの全然知らなかったのだが、Sweet Showers in Aprilさんのところで触れられていて、家の近くでやってるとは!と思って見に行ってみた。


 あらすじはなんかいわゆる南部ゴシックな感じの話である。マザコンで性的不能トランスヴェスタイトで病気で死にそうな主人公ロット(抑圧された同性愛者なのか、それとも病気で性的不能なのかは不明)が、自分に一目惚れしたショーガールのマートルとテレビのリアリティショーで結婚してミシシッピデルタの実家に里帰りするのだが、実家にはロットの荒っぽい性格のチキンという腹違い(母はアフリカン)の兄がおり、マートルはロットとチキンの間で繰り広げられる家屋敷をめぐる相続闘争のコマにされ…という話。チキンがマートルを強引に口説き落とそうとしたり、洪水で家が浸水するとかいう話になったり、まあなんかそういうテネシー・ウィリアムズな感じである。マートルはブランチ・デュボア(マートルもブランチ同様夢ばかり見ている)+猫のマギー(夫のせいでトタン屋根の上の猫状態)みたいな感じだし、チキンはスタンリー・コワルスキみたいである。ただ、ロットの役柄だけは南部ゴシックというよりは『サイコ』のノーマン・ベイツそっくりだった…最初は白いスーツで薄幸の美青年ふうに登場するのだが、最後に死んだ母親のドレスを着て血まみれになって出てくるところはまったくサイコかと思った。人殺しはないが…


 …で、役者さんたちはすごく頑張ってるし、土と水まみれのセット(原作だと家の階段があることになっているらしいのだが、この上演では階段ではなく山みたいなニセ土?で作られた坂になっている)もいいのだが、とにかくアメリカ英語が難しくてイマイチよく理解できなかったところが多かったのと(以前の『熱いトタン屋根の上の猫』でこりたので台本を持って行ったら途中で係員に注意された!耳の悪い人や外国人を中心にイギリスの劇場では結構台本を持っていく人はいると思うので、こんなこと初めて)、あとどうもやっぱり私はテネシー・ウィリアムズのあの息苦しい亜熱帯系の空気を持った南部ゴシックメロドラマ(+その上リアルタイム進行なので二時間の芝居でも長く感じる)が非常に苦手みたいで、なんか結構眠かった…とくにうちはコワルスキとかチキンみたいなタイプの男性が非常に苦手なので、一部の女性(性的指向問わず)やゲイ男性が得ているらしい「セクシーなゴリラ」(←混血のチキンにこの言葉を使うのはちょっと差し障りがあるが、スタンリーについてはよくこういう表現がされるし、マーロン・ブランドはスタンリー役で女性に絶大な人気を博したらしい)を見る楽しみもないのでつまらん…ああいうセクシーなゴリラ的なもの(←読者にゴリラの方がいたらお詫びします。他意はありません)に対するファンタジーって何なんだかね?それこそ動物園でゴリラを見るのと同じで、舞台でDV男を見ているぶんには安全だから客として高見の見物ができるってことなのかな?

 
 ただ、マートルとロットがテレビのショーで福音派の牧師に結婚させてもらうっていうところは60年代の芝居とは思えないくらい新しいと思った。もうちょっと現代風に華やかな演出でやってみたらどうだろう?