RSC、『町人奥様』〜演出も演技もいいが、戯曲が古くなってると思う

 RSCスワンシアターでフィリップ・マッシンジャー作の都市喜劇『町人奥様』(The City Madam)を見てきた。あまり上演されない戯曲で、マッシンジャーの作品を見るのはこれが初めて。

 都市喜劇のごたぶんに漏れずこれも話が複雑で、英語もちょっと難しい。妻と2人の娘の見栄っ張りぶりに嫌気がさしたサー・ジョン・フルーガルは修道院に入ったと称して家政管理を弟ルークに預け、娘の求婚者2人とともにキリスト教に改宗するネイティヴアメリカンの旅行者に変装してフルーガル家に客人として滞在する。ルークは昔からのならず者で改心したふりをしていたが実は全然そんなことはなく、家政をむちゃくちゃにして悪行を重ね、最後はニセネイティヴアメリカンのサー・ジョンにのせられてフルーガル夫人と2人の娘をネイティヴアメリカン悪魔崇拝の生贄としてアメリカに送ってしまおうとする。最後の最後にサー・ジョンと2人の求婚者が正体を明らかにし、妻と2人の娘は改心し、ルークがアメリカに追放されて終わり…というもの。

 演出自体はパワフルだし、とくにルーク役のジョー・ストーン・フューイングズが大変よくて、とにかく人をたらしこむのが上手くて貪欲でカリスマ的かつ複雑な悪党ルークを魅力的に演じていたと思う。しかしながら戯曲自体が決定的に古くなっているように思えてあまり楽しめなかったな…

 まあ話が複雑で詰め込みすぎなのは都市喜劇の特徴のひとつだと思うし、商人の台頭を示す芝居であるにしては資本主義市場を体現するような存在であるルークが追放されるというアンビヴァレントな終わり方であるのもまあしょうがないと思うのだが、問題はこの芝居にはミソジニー、人種差別的ステレオタイプ階級差別が結構見て取れるということである。まず、宮廷のレディたちを真似て豪勢なファッションに身を包み、高望みして求婚者たちに無理難題をつきつけるフルーガル夫人と2人の娘が最後はしおらしい妻として夫に服従しておしまいというのはいかにもミソジニー的で後味が悪すぎる。それからサー・ジョンと2人の求婚者がネイティヴアメリカンに変装するっていうのはちょっとミンストレルショーみたいで見ていて非常に居心地が悪かったのだが…とくにネイティヴアメリカンが邪悪な悪魔崇拝をしてるっていうこの設定はどうなの?マッシンジャーはたぶんそこまで実際のネイティヴアメリカンには興味なくて諷刺のためにこういう設定にしたんだと思うのだが、それにしたってあまりにもステレオタイプ的で笑えなかった。あと、この芝居では「都市は宮廷とは違う」という台詞が結構出てきて、だから商家の女性たちが宮廷のレディを真似るのは良くない、という話になるのだが、こういう価値観ってたぶんこの芝居が書かれた1630年代頃には台頭しつつある商人たちのプライドの表明(「自分たちは腐敗した宮廷の貴族とは違って地に足のついた暮らしをしてる」という誇りを表すもの)だったのだと思うのだが、今だとそういう時代背景が全くなくなってしまっているので、単に「身分の低いものは分を弁えろ」というようなつまらない表現に聞こえてしまう。

 …そんなわけで、演技とか演出のパワフルさはすごく楽しめたのだが、戯曲自体はちょっとあまりパッとしない作品だなぁ…と思った。マッシンジャーならもっと面白くて現代でも舞台映えする作品があるのでは?