グローブ座『から騒ぎ』〜とにかく楽しい!

 グローブ座で『から騒ぎ』を見てきた。これはシェイクスピア喜劇の中でも私が一番気に入ってる作品なのだが(全てのラブコメ映画はこの芝居なしには存在し得なかったであろう)、今シーズンはグローブとウィンダム両方で上演されるので嬉しい。


 戯曲自体がお気に入りということで点が甘くなってしまうのはしょうがないのだが、まあとっても楽しかった!お上品とは言えないし、から騒ぎの名にふさわしいドタバタが最初から最後まで続くのだが、そのへんも含めていかにもエリザベス朝の恋愛喜劇らしい演出(ジェレミー・ヘリン)だと思った。イヴ・ベストのビアトリスとチャールズ・エドワーズのベネディックは息がぴったりで、どっちもあまり容姿が整ってるとは言えないがとにかく頭が良くて愛嬌があり、お客さんをだんだん惹きつけて最後にはものすごく可愛いカップルのように見えてくるあたりがいいと思う。とくにベストのビアトリスはいい意味で躁と鬱の差にメリハリがあるというか、自分に見合う結婚相手がいないことを憂鬱がるあたり、頭の回転が速すぎて男性に敬遠される女性の孤独みたいなのが結構よく出てて良かったと思う(思ったんだけどこの芝居結構『じゃじゃ馬慣らし』に似てるんだよね…キャタリーナとビアトリスが結婚できないことを愚痴る台詞がそっくり)。
 

 あと、ヒーロー(オニー・ウヒアラ)とクローディオ(フィリップ・カンバス)の静かなほうのカップルも意外に笑えてそっちも良かった。ヒーローは初登場してきた時からすごく可愛くて、世間知らずで恥ずかしがりのクローディオが始めっからヒーローにぞっこんなのが細かい演出で効果的に示されてたと思う(公爵が「一ヶ月くらいは(ヒーローの父の)レオナートの家に滞在する」という話をした時にガッツポーズをして喜んだり、退場するヒーローに話しかけようとしてできなかったりとか)。それでまあ世間知らずで一途だからすぐドン・ジョンの策略にひっかかってヒーローが浮気したなどと思いこむわけで、このあたりの演出は説得力がある。

 あと公爵(イワン・スチュワート)のほうの演出なのだが、映画版『から騒ぎ』(公爵役はデンゼル・ワシントン)でもそうだったんだけどこの公爵って明らかにビアトリスに惚れてるよね…この演出ではふざけてビアトリスに「私を夫にするのはどうかね」とか聞く場面はふざけているとは思えないくらい本気っぽかったし(ビアトリスがこの場面でかなりびびっていた)、最後の場面で寂しそうな顔をする公爵にベネディックが「結婚しなさい!」と言うところとか、お客さんは苦笑いだった。


 まあそんなわけで『から騒ぎ』は恋愛の様々な機微を面白可笑しく描いているって言う点では英文学史上最高の戯曲だと思うし、グローブみたいな野外劇場でワイワイ上演するには最適の作品だと思う。日本でももっと上演すればいいのに…