『近現代日本を史料で読む――「大久保利通日記」から「富田メモ」まで』〜ぜひぜひ富田メモの公開を!

 御厨貴編『近現代日本を史料で読む―「大久保利通日記」から「富田メモ」まで (中公新書)
』を読んだ。四十数点の明治以降の史料(日記など個人的な文書、公文書は除外)を簡単に紹介するというもの。新発見を論じるとかではなく、最新の研究トレンドなんかにも簡単に触れつつ史料の概要を面白いところ中心にちゃちゃっと紹介するものである。見た感じへヴィそうだが、初心者でもすぐ読める本で、日本近現代史の研究者がふだんどういう史料を使ってどういうことをしているのかわかるところが面白い。


 とりあえず驚いたのは、重要そうな史料でも全面的に公開されていないものがかなりあるということである。『大正天皇実録』とか、とくに皇室関係の文書はまだまだ見ることができないものがあるそうだ。こういう史料を秘匿しておくのは全く市民の利益にならないので、税金を使って保存してるんならさっさと研究者やジャーナリストなどに公開すべきだと思うのだが…あと、「富田メモ」が未公開で刊本として出版されていないのは非常に残念である。「富田メモ」は昭和天皇靖国A級戦犯合祀についてわだかまりの気持ちを示したという記述を有する史料なのだが、編者の御厨先生がどうして富田メモは真正だと思ったのかとか、卜部亮吾日記という別の史料で記述の信憑性が確認できることとか、いかにも歴史好きが面白がりそうな話がいっぱい書いてある。別に昭和天皇が個人的にどう思おうが現在の靖国の政治的地位とそれをめぐる問題にはたいして関係はないのだが、単純に歴史的事実として面白い。


 あと、政治家の日記にけっこう観劇記録が入っているということも書かれており、これは演劇史の研究者としては非常に興味をそそられる。大蔵公望は見た芝居に点数をつけてレビューも書いていたらしい。

 ただ、欲を言えばやや記述がわかりにくいところもある。例えばp.232には「戦後の史料は「入江相政日記」をはじめ、先に挙げた「卜部日記」などがあるが…」という記述がある。ここは前節で「入江相政日記」が項目としてとりあげられており、一方p.230で「卜部亮吾の「日記」」という表現が一瞬出てくるからそういう記述になっていると思うのだが、実は「卜部日記」は次節で項目としてとりあげられているので、「先に挙げた」ではなく「次節でとりあげる」とすべきだったろうと思う。あと、これは高校生とかも読む本だと思うのだが、序章の文章が歴史の新書にしてはとっつきにくく、「隔靴掻痒」とか難しげな言葉が結構出てくるので、そのあたりがちょっと少しよくないかもと思った。