"Private Romeo"(『兵卒ロミオ』)〜デレク・ジャーマンの爪の垢タイムをとるべきである

 カレッジのシェイクスピアセンターとクィア・スタディーズのコースが合同で監督のアラン・ブラウンを招いて『兵卒ロミオ』(Private Romeo)という映画の上映会をやったので見に行ってきたのだが、いやいや全然面白くなかった。キングズはデレク・ジャーマンの母校なんだけど、ジャーマンの爪の垢でも煎じてのめって感じ。

 舞台はアメリカの士官学校で、『ロミオとジュリエット』を勉強中の八人の男子学生が休み中に学校に取り残され、そこでゲイの恋物語といじめが…というもの。なんか『アナザー・カントリー』とか『百合の伝説〜シモンとヴァリエ』かなんかみたいだが、台詞はほとんど原典のロミジュリからとっており、名前もそのまんま。シャツも着てない男どもが閉鎖空間でいろいろ…ってことで、むしろ雰囲気は私があまり好きじゃないプロペラに近いかも。
 

 で、私としてはこの設定と原典の台詞をそのまま使うという選択が全然マッチしていないと思って非常につまらなかった。最初に男の子たちが士官学校で勉強している様子とかがうつって一応設定が提供されるのだが、全部原典の台詞にするならあれはいらないと思うし、その設定を生かしたいんだったらもうちょっと話をいじって現代のアメリカの文脈にきちんとフィットするようにしたほうがいいと思う。監督はアメリカの高校における同性愛の生徒に対するいじめという深刻な社会問題に真面目に向き合いたかったのだろうが、原典の台詞をそのままで名前も変えずにやってしまうとなんか「これは芝居です」っていう感じがずーっとしてイマイチ映画に入り込めず、そういうテーマがぼけてしまう気がする。あと、ロミオとジュリエットが結婚するところとかもそのまんまやるのだが、男二人でhusbandとかmarriageとか言うと当然今の英米の文脈では同性婚のことが頭にうかぶわけじゃん?私は同性婚も異性婚もバカげていると思ったのでなんかそういう原典に忠実にやるあまり余計なコノテーションが入ってしまうというようなのはよくないと思ったのだが。


 それからまあやっぱりキングズカレッジでシェイクスピアクィア・スタディーズや映画を勉強しているような学生はおらが母校が誇る芸術家であるデレク・ジャーマンの映画(他の大学の学生は見てないかもしれんけど、うちらのカレッジはメインキャンパスの正面にこの人のでっかいポスターがかかってるんだよ)や、あるいはバズ・ラーマン版『ロミオとジュリエット』、あと『恋のからさわぎ』や『O』(オセローの映画化)なんかも見ているわけだが、ああいうのに比べるとやっぱり原典の消化の仕方が見劣りする。路線としてはデレク・ジャーマンふうに古典をとてもクィアで前衛的な感じで…というのを狙ったんだと思うが、ジャーマンが『エドワードII』で見せたような「なんでこんなことしてんのかよくわからないけどなんかすげー」っていうひらめきがあまりない。原典の台詞をそのまま使って若者が…っていうのはバズ・ラーマンの影響だと思うのだが、なんか見ていてラーマンの映画のほうが直接的な同性愛へのレファレンスはないのにまだなんかちょっとクィアだったような気がする(ラーマンのシェイクスピアはすごいキャンプな映画だからそう見えると錯覚しているだけかもしれないが)。あと私は結構『O』が好きなのだが、なんか高校の荒れっぷりとかいじめという点では『O』のほうがなんかちょっとリアルな感じがした気がするな…


 あと、低予算でしかも大学で上映ということで仕方ないのだが、映像の質の悪さが…ところどころ赤が出過ぎて役者(役者はみんなすごく良かった。若いのにシェイクスピアの台詞回しもきちんとしてる)の表情がつぶれてしまっていた。映像時代はアメリカの田舎の学校風景の寂寞とした感じをよくとらえているのに、赤が出すぎであまり色彩の繊細さが生かされなかったのが残念だ。


 ちなみに監督のアラン・ブラウンの本職は映画監督ではなく小説家らしくて、『オードリー・ヘプバーンズ・ネック』という日本のことを書いた小説を出しているらしい。知床が出てくるそうだ。これも現在映画化中らしい。