"!WAR Women Art Revolution"(『女の芸術革命戦争』)〜60年代以降のフェミニストアートを追った歴史ドキュメンタリー

 突然ですが、質問。「あなたが知っている女性のアーティストを最低三人あげてください」

 えーっとアルテミジア・ジェンティレスキ、オノ・ヨーコフリーダ・カーロで三人クリア。ケーテ・コルヴィッツ草間彌生レオノール・フィニレオノーラ・キャリントンジョージア・オキーフ、メレット・オッペンハイム、ベルト・モリゾで10人。うちはまだあげられるぞ!


 …なのだが、芸術史とか勉強してない人は普通はフリーダ・カーロくらいしかあげられんしたぶんオノ・ヨーコが芸術家だって知ってる人もそんなにいないかもしれないとかいうレベルである。


 本日ホワイトチャペルギャラリーの無料上映会で見てきた"!WAR Women Art Revolution"(仮題:『女の芸術革命戦争』公式サイトはイマドキ音が出る作り)にはこの質問を道行く人にしてみる場面があるのだが、やっぱりフリーダ・カーロくらいしか出てこない。そうは言っても50年前よりはちょっとマシになったんだろうとは思うのだが、芸術史にもいろいろあるものの絵画・彫刻の分野ほど女性がないがしろにされてきた分野はないと思う。たぶん読み書きできて紙とペンがあれば参入できる文学とかに比べて絵画・彫刻は金と訓練が必要な上いろいろな制度があるせいで参入しづらかったという違いがあるのではと思う(このへんはきっと美術史の研究がたくさんあるに違いない)。


 で、この"!WAR"はリン・ハーシュマン・リーソンというご本人もアーティストである映画作家が作ったもので、60年代以降のフェミニスト芸術の歴史をいろいろな映像でたどったドキュメンタリーである。なんでもこの監督は『クローン・オブ・エイダ』(ティルダ・スウィントンバイロンの娘である19世紀の計算機プログラマー、エイダ・ラヴレイスの役を演じているらしい)の監督らしい。この映画は見たいと思っていたのだが未見である。


 "!WAR"によると、アメリカのフェミニスト芸術運動は公民権運動の影響を受けてフレズノ、ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴなどで60年代末に始まったものだそうだ。中心人物はジュディ・シカゴなどアーティストたちだが、美術史家のアーリン・レイヴンなどもアカデミアの人もいたらしい(有名な映画批評家のルビー・リッチも出てくる)。普通、60年代のフェミニズム運動というとミドルクラスの白人の若い女性中心で…みたいなイメージがあるのだが、少なくともこの映画によると芸術におけるフェミニズムはアカデミックなフェミニズムに比べるとかなり公民権運動と絡んでいたようで、アフリカ系のアーティストであるハワーデナ・ピンデル(←全くきいたことなかったがこの人の作った作品はおもしろいと思った)やキューバ系のアナ・メンディエタ(夫に殺されたという噂があり、そのせいで美術界は大混乱になったらしい)が非白人女性の芸術を世間に認めさせる上での重要人物として登場している。


 まあそんなわけで、女性たちが白人男性中心的なアート界でどうやってポルノグラフィ扱いされるのに抵抗しつつ自分たちの体のことを表現してきたか、性暴力や家庭での抑圧などに対する告発を時には直接的に、時には象徴的な手法で表現し、だんだんとアート界で受け入れられるようになっていったか、をいろいろな作品をまじえて解説する形式になっており、飽きさせない。あとインタビューを受けている人たちのキャラがとにかく立っているのが面白く、一人だけでもドキュメンタリー映画やドキュメンタリー演劇の主役を張れそうなヘンなヒトたちが大挙出演で最後は少々疲れてくるくらいである。ゴリラ・ガールズなんか全員ゴリラのマスクをかぶっているので顔が出てこないのだがそれでも濃い。


 まあそういうわけでこういう濃いパイオニアたちの独創性と苦労は見ているだけで面白いし、いくぶん美化されてはいるにせよすごいなと感心するわけだが、今こういう先達の遺産がちゃんと生かされてるのかっていう話はまた別だと思う。今ではまあハイ・アートにおいて女性アーティストが身体表現として裸体を用いるとか、家庭生活の小道具なんかを使って演出をするというのはもうよくあるっていうかなんかだと思うのだが、60年代末のアーティストが服を脱いだり台所用品をアートに使ったりしたのは政治とか美とかに関するなんらかのメッセージを伝えるためであって、見た目のショッキングさを一義的に狙っていたからではない。やはり素人目にも「おもしろい」と思わせる作品を作るには、こういう溢れ出るメッセージ(コンセプトという言い方はハイソな感じであまり好きではない)が先になければいけないと思うのだが。


 で、これは全然インディーズな映画でたぶん商業公開されてないんじゃないかと思うのだがなぜかはてなダイアリーに既にふたつもレビューがあがっている(これこれ、後者はベルギーのはなこさんのもの)。日本公開はされるんだろうか?