アリスからジェーンになったミア・ワシコウスカ〜『ジェーン・エア』

 ケイリー・ジョージ・フクナガ監督による『ジェーン・エア』映画化最新版を見てきた。かなり良かった。


 今回の映画化はフラッシュバックを使って時系列をバラしてあるが、あらすじ自体はかなり原作に忠実である。単に話をきちんと追っているだけではなく、原作のゴシック小説風な雰囲気を良く生かす一方、ジェーンの人権思想(といっていいのかはわからないが、原作にある階級差別や性差別への手厳しい批判)を原作同様押しつけがましくないやり方でうまく見せることで、単なる陳腐なゴシック風メロドラマではない社会派恋愛ものに仕上げたところがいい。


 一方でそれでもかなり原作をはしょっており(はしょっても二時間を越えるのだが)、ローウッドにスキャンダルが起きて監査が入るところとか、リヴァーズの恋人候補ロザモンド・オリヴァーの話とかは全部カットされてる。ただ、セント=ジョン一族とジェーンが親族だとわかる部分をカットしたのは正解だな。あの設定はヴィクトリアンにはウケたと思うが、現代人にはご都合主義すぎる。


 あと、リヴァースの描き方がかなり批判的であるように見えたのだが、これはたぶんアメリカとかでキリスト教原理主義が伸張したことへの批判が反映されてるんじゃないかと思う。原作のリヴァースは愛してもいないのにいい宣教師になりそうだからということでジェーンに結婚を申し込む嫌な奴である一方、ロザモンド・オリヴァーという美しい別の女性に心惹かれていたりする非常に弱い人間として描かれている(おそらくはその弱さを隠すため強いジェーンに頼ろうとするが、男性としてのプライドはそれを認めない)。まあ偽善的ではあるが、人間味はある。ところがこの映画にはロザモンドが出てこないので、リヴァースはなんかものすごい朴念仁で全く女に興味がなく、だからこそジェーンに一方的に"sacrifice"を要求できる人みたいに描かれている。前半のローウッドの描写といい、原作にも存在する反狂信、反原理主義の姿勢が非常に強調されてると思う。


 ジェーン役のミア・ワシコウスカはとてもいい。去年『アリス』や『キッズ・アー・オールライト』に出てたとは思えないほど大人に見える…が、『アリス』の後に『ジェーン・エア』とは、19世紀文学まっしぐらでこの後役を広げられるのかが心配である(個人的にはジョゼフ・ゴードン=レヴィットが求婚者役で、ワシコウスカをヒロインにして19世紀文芸ものを作ってほしいのだが)。ただ今回実写のワシコウスカジェーンを見て思ったのは、『ジェーン・エア』はブスなのに頭がいいから行く先々で求婚者が出てくるという元祖ブス文学なのに、ミア・ワシコウスカは思ったほどブスくないような気がしたのでそれはどうなのかなということである(なるべく地味作りにしているが、なんか性別を問わず一部の文系にすごく好かれそう)。まあでも「地味作りでも女性は異性愛の圧力から逃れることはできない」という話だと考えればいいのかもしれない。