『戦火の馬』(War Horse)舞台版をようやく鑑賞!本当に馬だった

 ナショナルシアター発の希代のロングランヒット、『戦火の馬』(War Horse)の舞台をニューロンドン座で見てきた。キングズカレッジ出身の児童文学作家でイギリスでは大変人気のあるマイケル・モーパーゴの同名の原作を舞台化したもので、最初はナショナルシアターでやってたのだがあまりの好評にウェストエンドにうつしてオープンエンドのロングランになったというもの。現在スピルバーグが映画化していて、年末に公開されるらしい。原作も読んでいたし前から見たいと思っていたものの、ロングランになってしまったわりには結構チケットが売り切れているので見そびれていたのだが、覚悟を決めて行ってきた。

 ストーリーは非常にシンプルなもので、賢い馬ジョーイと飼い主アルバートの絆を通して馬の視点から第一次世界大戦を描くというものである。馬好きのデヴォンの田舎の少年アルバートは愛馬ジョーイを飲んだくれのロクでもない父親に軍用馬として売られてしまい、成年に達したら自分も入隊してジョーイを探すと決意する。一方、ジョーイはドイツ軍につかまって敵側の軍馬になったり(ドイツの馬好きの兵士に可愛がってもらうのだがこの兵士も戦死する)、戦友として仲良くなった馬をなくしたり、激戦をくぐり抜けつつ大変な苦労をする。このあたりの戦争描写は非常にえぐいのだが、最後にジョーイとアルバートがめでたく再会しておしまい。

 それでとりあえず主人公は馬のジョーイなのだが、舞台ではこの馬をハンドスプリング・パペット・カンパニーという南アフリカの人形劇団が作り物で演じており、これがまるでホンモノの馬のようで客の目をさらう。一頭の馬を三人の黒子が操るようになっており、足として二名、一人が頭を操作するのだが、これが耳まできちんと動かして微細な表情を作れるようになっているので実にケモノらしい。馬体は結構筋肉剥き出しみたいな感じで決してリアルに馬に似せようとしているわけではなく、滑らかな毛並みとかは表現してないのだが、人間に撫でてもらって喜ぶ場面とかではなんとなく毛が見えてくるような気がする。こういうイリュージョンを創り出してくれるのが舞台のいいところである。他にちょろっと出てくるいろいろなパペットの動物もいちいち生き生きしている。 

 あと、特殊効果がすごい。第一次世界大戦塹壕の雰囲気を出すためにいろいろな光や音の効果を用いており、小道具なんかもいちいち気が利いている。後ろのスクリーンに映像を映す演出は最近の流行を取り入れている感じ。こういう特殊効果をまじえた戦争アクションはかなり見物である。

 ただ、役者の存在感はこの馬のすごさとアクション場面の面白さでやや薄れている気も…悪くはないのだが、馬に本当に場をさらわれてしまったな。ただ、デヴォン訛りを使っているセリフがよくわからなかったというのもあるので、役者の存在感が薄いと思ったのはうちのほうにも責任があるのかもしれん。あと、ちょっと尺が長すぎる。二時間四十分もあって後半ややダレ気味になったので、もっとカットしてもいいかなと思った。

 しかしながら、この作品は原作もそうなのだが(というか原作はもっとあからさまな気もするのだが)児童文学のわりには描写が結構えぐい。アルバートの飲んだくれの父親とかは結構リアルにロクでもないし、第一次世界大戦の描写も、英独両方の軍にまともな馬好きの兵士がいる一方、やっぱりロクでもない無能で残虐な将校がジョーイをひどいめにあわせたりとか、なかなか子供が震え上がりそうなところが結構ある(戦争の悲惨を訴える作品なのでまあこのくらいでちょうどいいとは思うのだが)。ただ、イギリスだと第一次世界大戦→「ロバに率いられたライオン」(無能な将校に率いられた有能な兵士たち)というイメージが強いらしいので、その影響もあるのかも(見ていて『ブラックアダー』を思い出したのだが、あれもまさにそういう話だった)。

 ちなみに映画化のほうは『ブラックアダー』にも参加したリチャード・カーティスが加わっているらしい。そうきくといっぺんに楽しみになってきた。

↓翻訳が出てないようなので原作の原書を。児童文学で簡単な英語なのでとてもオススメです。