住田朋久、礒部太一「脳ブームの社会的背景とマスメディア」『新通史日本の科学技術3』568-76

 住田朋久、礒部太一「脳ブームの社会的背景とマスメディア」、吉岡斉、綾部広則、桑原雅子、塚原修一、川野祐二『新通史日本の科学技術3』568-76を某筋から入手して読んだ。

 内容はタイトルのとおりで、通史の一部で短い論文なので学術的な議論をするよりは初学者向けに脳ブームの経過を概観して少し分析を加えるようなものである。

 中心的に解説されているのは川島隆太脳トレ関連研究で、これ以外の脳科学ブーム関連事象についてはそれほど扱われていない。この間レビューを書いたナターシャ・ウォルターが扱っているような脳科学で性差を解明するというような路線の流行とか(ウォルターが触れている一般向けの脳科学性差本は日本にもかなり輸入されているはずなのだが、この本には他にジェンダーの部があるのでここで触れられているのかな?)、あるいは脳科学ブームの一部としての共感覚アスペルガー症への関心の高まりなどは触れられていないので、割合シングルイシューで物足りない感じはある。また、川島の業績の是非についてはかなり慎重に評価を回避しているように見られるところもあり、ここも少し物足りないかと思った(まあ通史なんで、是非の議論は避けたかったんだろうと思うが)。


 むしろこの論文の面白いところはメディアがどう脳ブームを伝えるかという572-73ページあたりで、ここはもっと読みたいと思わせられた。科学的に正しいかよりは日常会話のネタとして面白いかを重視する「ネタ科学」の枠組みの話とか、ウェブサイトによる研究者の情報発信とか、このあたりは非常に興味深い。とくに572ページで触れられている個人がメディアから出て来た情報をどう解釈するかという話は、全然題材は違うけどうちが博論で取り上げるつもりでいるスタンリー・フィッシュの解釈共同体の話にも結びつけられるので大変興味を惹かれるところがある。

 なお、執筆者のひとりであるid:sumidatomohisaさんが日本科学史学会で伊勢ツアーを実施されるそうなので、興味ある方はこちらもどうぞ。

※なんと著者名に漢字間違いがありましたので慌てて修正しました。すいません…