ナショナルポートレイトギャラリー「最初の女優たち」展〜小規模だが充実、カタログはとにかく買い!

 ナショナルポートレイトギャラリー「最初の女優たち」(The First Actresses)展に行ってきた。王政復古で初めて17世紀半ばに公然と女優がロンドンの舞台に立てるようになってから18世紀まで、スター女優の肖像画や舞台を描いた絵画を展示しつつ舞台芸術の歴史を簡単に説明する展覧会。四部屋くらいしかなくて小規模な展示なのだが、いつも研究書の表紙とかで見かけている女優の肖像画のホンモノが勢揃いで大満足。ネル・グウィンからサラ・シドンズまで、演劇史の残るスター女優の肖像画はたいてい展示してある。欲を言えばウォレスコレクションにあるゲインズバラの「パーディタに扮したメアリ・ロビンソン」を借りてきて同じくゲインズバラのエリザベス・アン・シェリダン(リチャード・ブリンズリー・シェリダンの妻)の肖像画と対にして展示すればよかったのでは…と思うが、ウォレスはお宝を貸してくれなかったのだろうか。


 で、カタログがこれまた大満足の出来。これは17世紀〜18世紀の演劇(オペラ含む)、イギリス文化、ジェンダーの美術史をやっている人は買いである。

 とにかく図版が豊富できれいだし(21ページだけなんでこんなんなったという感じの図版だが)、ただ絵をのっけるだけじゃなくネル・グウィンからサラ・シドンズの時代まで、主なスター女優の肖像画に簡単な伝記一覧がついているので資料集として大変役に立つ。参考文献一覧とかも結構充実している。

 学術論考も数本収録されており、この頃の女優について興味深い話がいくつも出てくる。ネル・グウィン(チャールズ二世の愛人)のやたらおっぱいが見える服装(wardrobe malfunctionとか言われてる…ジャネット・ジャクソンか?)は高級娼婦を示すものであった一方ネルの図像的トレードマークだったとか(p.64)、ヘンデルの時代頃まではストレートプレイの女優と歌舞劇の女優があまり分かれていなかったとか(p.81)、楽器を持った人物を描く際は女性はあまり動かなくても弾ける鍵盤楽器やギター、男性は上半身を激しく動かすヴァイオリンとかに結びつけられていたとか(p.90。今と違って男がギターというわけではない)、面白い話がたくさん出てくる。全体としては、コヴェントガーデンのスターたちをもてはやしつつスキャンダラスに描き出す17〜18世紀の傾向と、現在のハリウッドスターを崇拝するセレブリティカルチャーを重ねあわせることで舞台芸術史を現代人に身近なものにしようとしている(たぶんイギリスにおけるセレブリティカルチャーの勃興というのは最近流行の研究テーマで、マーガレット・キャヴェンディシュやデヴォンシャー公爵夫人ジョージアナなんかを「イングランド最初のセレブリティ」と見なす人もいるから、その系列なんだろう)。

 なお、おそらくこの展覧会タイトルの元ネタになったと思われるElizabeth HoweのThe First English Actresses: Women and Drama, 1660–1700はこの分野については必見本である。これはネル・グウィン肖像画が表紙になっていて、内容もネルの話が結構多い。

 あと、オクスフォード版のアフラ・ベーン戯曲集のタイトルになってるヘスター・ブースの絵のホンモノもこの展覧会で見られる。こ