『シャーロック』第二シーズン第二話、「バスカヴィルの犬」(The Hounds of Baskerville)(少しネタバレあり!)

 『シャーロック』第二シーズン第二話は『バスカヴィル家の犬』(The Hound of the Baskervilles)の翻案、「バスカヴィルの犬」(The Hounds of Baskerville)。原作はホームズものの中でもとても人気のある作品である。もとのタイトルは"of the Baskervilles"だがこの翻案は"of Baskerville"だそうで、ダートムアの「バスカヴィル家」が出てこないかわりに舞台はやっぱりダートムアのどこかにある軍のリサーチセンター、バスカヴィル研究所である。

 とりあえずネタバレにならない程度にあらすじを解説しておくと、冒頭はロンドン、すっかり退屈しておかしくなっているシャーロックのところにダートムア出身の気弱そうな青年ヘンリーが相談にやってくる。ヘンリーは子供の頃に父親が魔犬に殺されたところを見て以来いろいろなトラウマに悩まされているらしいのだが、昨晩また魔犬が現れて動揺しきっているという。ヘンリーが住んでいる近くには軍事機密である遺伝子操作や薬剤について動物実験をやっているバスカヴィル研究所があり、魔犬はここから逃げてきたのではないかというまことしやかな噂が村中で囁かれているらしい。普通なら幻聴かなんかだろうということで医者に通うのをすすめるところだが、ヘンリーの話しぶりにあやしいものを感じたシャーロックはジョンと一緒にダートムアに向かい、マイクロフトからパクった身分証明書などを用いて研究所に潜入するなどいろいろ調査を始める。ところが魔犬の存在を疑っていたシャーロックも魔犬を目撃し、やがてワトソンの前にも…ということで事態はさらに紛糾。


 翻案版はもとのストーリーに非常に忠実で、原作にもあるオカルトチックな雰囲気をふんだんに取り入れてバイオホラーっぽい話にしつつ「怖い魔犬なんかいないよー本当に怖いのは人間だよー」と、合理的なミステリらしい解決を持ってきてくれるもので、他のエピソードに比べるとかなりけれん味も含めてオーソドックスな医学スリラーだった気がする。もちろんふつうのスリラーというには謎解きがすごい複雑だし、相変わらず異常に展開が早いのだが、それでもこの間の息を呑むヒマすらないような「ベルグレーヴィアの醜聞」に比べれば全然お茶入れながら見られる早さ。

 …それで、後になって冷静によく考えると「あんな手の込んだトリックやるか、さっさと殺しちゃったほうが犯人には安全なんじゃないか」って気もするのだが、見ている間はすっかりシャーロック次元にのみ込まれてしまうので全然気にならない。やっぱりこれは編集と脚本の魔力だな…

 あと、途中でシャーロックが"Mind Palace"と称して記憶術みたいなのを実行するところがあるのだが、あれを見ていてちょっとフランセス・イェーツの『記憶術』を思い出した。脚本家のマーク・ゲティスはあのあたりの本を読んでリサーチしているんだろうか。