フリーメイソン本部グランドロッジに潜入したよ!〜全然危険な秘密結社という感じではないけどジェントルマンオンリーの社交クラブというだけで十分変態っぽかった

 連れ合いの研究の関係でフリーメイソンのロンドン本部グランドロッジに行ってきた。
 入り口には星が。

 基本、フリーメイソン博物館のほうは平日はだいたいオープンしており、図書館も登録すれば非フリーメイソンでも使用可でオンラインカタログで資料検索もできる。ホール内本部ツアーのほうも無料で休日・大人数のグループ以外は予約も必要なく、ウェブサイトに書いてある開催時間に従って本部入り口で受け付けしてもらえば誰でも入れる。ただし建物で催事がある日などはツアー開催がないこともあるようなので注意。イングリッシュヘリテッジに史跡指定されている建物なので、映画の撮影やパーティ、ファッションショーなどに貸し出すことも結構あるらしい(『ロシアより愛をこめて』のクレムリンの一部とかロバート・ダウニー・ジュニア版の『シャーロック・ホームズ』、あと最近はアメリカの映画で「サダム・フセインの宮殿」として使われたとか…)。
 受付でこういうパスを発行してもらう。


 これを持って中に入る。こんな内装。




 博物館のところからツアー開始だが、博物館内よりあとのルートは撮影不可。まあ歴史的建築物としてはふつうである。ご本人もメイソンらしいおじいさんがツアーガイドで、子供からお年寄りまで15人くらいのグループで会議室、儀式の行列ルート、シュライン(第一次世界大戦でなくなったメイソンメンバーに捧げられた神殿)、グランドロッジなどを見ることができる。各ポイントでメイソンの歴史や装飾に込められた象徴などについて詳しい解説をきくことができる。

 1933年にオープンした史跡指定されているアールデコの建築物だけあって大変立派だし、あと内部装飾がステンドグラスなどをふんだんに使って明らかにキリスト教の教会を模しているわりには非常に象徴体系がふつうの教会と違っていて、神秘主義的というか古代ギリシャ+エジプト趣味にちょっと世俗的なロンドンの流行(グランドテンプルの四隅に黒い装飾があるのは初めてロンドンでメイソンが集会所として使用した宿屋だかクラブだかの設計を真似たノスタルジックな趣向だとか)を加えた感じで見ているだけで非常におもしろい。全英で最初にセントラルヒーティングと障害者・高齢者用エレベータを導入した建築物のひとつだそうで、アールデコの新しもの好きで実用志向な趣味がメイソンの神秘趣味とよく調和しているという点でとても個性的である。グランドロッジの天井にはイタリアから職人を呼んで作ったたいへん精巧なモザイク画があり、例のメイソンの目やコンパスの絵のモザイク版などを見ることができる。

 ガイドさんの歴史解説によると英国王室メンバーフリーメイソンにしばしば興味を示しており、故ウィンザー公やケント公エドワード、マイケル王子などは熱心な活動家だそうで、現在のこのロンドンのグランドロッジのグランドマスターはケント公だそうだ。エディンバラ公フィリップもメンバーらしいがそんなに熱心ではない(?)みたいで、王室の若いメンバーフリーメイソンの活動には参加していないとガイドさんが言っていた(たしかにチャールズは自然食品オタクであまりフリーメイソンとかいう感じじゃないし、ウィリアムやハリーはフリーメイソンよりもサッカーやったりクラブで踊ったりするほうに時間とカネを使いたがりそうである)。

 あとフリーメイソンはいろいろな慈善・芸術活動に参加しており、ストラットフォード・アポン・エイヴォンのシェイクスピアメモリアルの保全ダラムのビーミッシュ屋外博物館の営業など地域文化活動のためお金を集めたりしているらしい(保全事業のためフリーメイソンが行った行進儀礼の写真などを博物館で見ることができる)。

 この他、どうもフリーメイソン陰謀論などをけっこう苦々しく思っているようで、博物館では"United Grand Lodge of England - Your Questions Answered"という冊子を無料で配っている。この冊子は「フリーメイソンはメンバーを仕事の場で贔屓するという噂は本当ですか」とか「フリーメイソンはよくある政治圧力団体なのですか」とかいう質問に対して「そういうことは強く禁止されております」と答えている(…まあ、フリーメイソン陰謀論は一笑に付されるものだとしても、ジェントルマンの社交クラブであるからにはメンバー同士のえこひいきとかは十分ありそうだし、実際にえこひいきするヤツがいるからこそ強く禁止されているのだろうが)。

 まあそういうわけで、ロンドンの本部ロッジを見学した限りではフリーメイソンはあやしい秘密結社というよりはオタクなジェントルマンの風変わりな社交クラブという感じである。しかしながらまあ私は女性であることもあり、ジェントルマンオンリーの社交クラブであるというだけで何か変態っぽいものを感じるのだが(ズボンの片方をまくりあげて変な儀式をやるとかなんかそれはそれはものすごくあやしい男子校ノリではないですか)、どうやら18世紀の一般庶民もそう考えていたようで、ウィリアム・ホガースが「実はフリーメイソンは高潔な紳士の社交クラブという口実で大酒を飲んで騒いでるだけなんだよ!」という諷刺画を描いているらしい(博物館に絵が飾ってある)。たぶん18世紀には集会という名目でものすごい量の酒を飲んで下品な冗談を飛ばし合ったりしていたのかもしれない(実は今でもそうなのかも!!)。

 なお、本部ロッジの地階にはフリーメイソンショップがあり、フリーメイソングッズを買うことができる。

 フリーメイソンのマークが入ったエプロンやネクタイ、フリーメイソンチョコ、またまた書籍なども販売している。

 …そして私はフリーメイソンクマを買ってしまった。

 まあそんなわけで陰謀論がなくても十分あやしい「男の空間」であったわけだが、アールデコ趣味の美しい建物は一見の価値ありである。アールデコのすてきな建物を見たい方、秘密結社とかホモソーシャルに興味のある方は是非どうぞ。