箱庭的中世クロイスターズ美術館〜アメリカ人がカネにものを言わせて回廊をひとつ買い付けるごとにヨーロッパでは野良神が一柱増えるんです!

 1日のお昼はまずクロイスターズ美術館へ。クロイスターズはメトの分館で、ワイントンハイツというマンハッタンの北部地域のフォートトライオン公園内にある。かなり街の中心部からは遠い。

 公園にネコが!

 砦のあと。遺跡らしい。

 クロイスターズは駅から10分くらい公園の中を歩いたところにある。

 中はともかく回廊回廊回廊。





 全てヨーロッパの修道院回廊を移築したものらしい。
 教会堂も移築。

 一応、ふつうの展示室もある。


 こちらが『謎の十字架―メトロポリタン美術館はいかにして世紀の秘宝を得たか』のテーマになった有名なクロイスターズの十字架。


 クロイスターズのお宝のひとつ、ユニコーン狩りのタペストリー



 このタペストリはえらくなぞめいていて宗教的な解釈もエロティックな解釈もできそうなあたりが怪しい。私は中世芸術は苦手なのだがこれは技術がとにかくスゴいこともあり、すごく惹かれるものを感じた。細部の花の描写などは繊細だが、ユニコーンが狩られて刺されたりするところはかなり残虐である。なお、現在このタペストリーについては数学者から織物名人までいろいろなメンバーを揃えて再現プロジェクトが進行中らしい。

 そんなわけで展示品はすごいのだが、私はこのクロイスターズ美術館には非常になじめないものを感じた。なんというか、カネの力でヨーロッパから根こそぎ移設された修道院の遺構ばかりでものすごく倒錯的である。回廊を買いつけてきた人たちは中世美術保存のことを本気でものすごくまじめに考えてお金を有意義なことに使おうと思ったんだろうが、この回廊が入っていた修道院のあったところは買い付けられるまではまがりなりにも神の住まう場所であったわけである。それで、これは東アジア人とか東南アジア人的な感覚なのかもしれないが、神殿とか修道院とかはその場所に神が住んでいそうだという必然性があるからこそ建てられたのであって、建屋が朽ちても一度神の家が建ってしまったからには神は関係なくその場所に宿り続けているはずだと思う。ということは、この修道院があったヨーロッパのどこかには今では社持たずの野良神がいて、今私が見ているクロイスターズには神の抜け殻になった家があるわけである。なんかそう考えるとここはヨーロッパに神々を置き去りにしてアメリカまで持ちこまれた、あるい意味箱庭化された中世なんだな…という感じで実にキッチュでかえって気味が悪い。修道院とかがそのまんまもとの場所で朽ちていくのは荒ぶる神の盛衰(信じて社を守る人がいなくなれば神も力がなくなって老いる)を感じさせてなかなか風情があるが、こういうふうに移転して保存されるとどうももとの神に祟られそうで薄気味が悪い。

 実は私はお寺や神殿にある仏像とか神像とかは全く気持ち悪いと思わない一方で美術館にあるやつはちょっと気味が悪いと思ったりすることがあるのだが、仏像は神像はまあもともと崇拝対象である神仏を持ち運べるようにしたものだっていうところもありそうだからまだ許せる。一方でこういう建築物は場所に宿る神の付属物であるはずだと思うので、移築すると非常に気味が悪い。