ワシントンナショナルポートレイトギャラリー

 毎日毎日図書館とホテルの行き帰りだけで疲れてきたので、今日は図書館が四時半に閉まった後夜もあいているワシントンのナショナルポートレイトギャラリーに行ってきた。
 こんな建物。


 内装はこんな感じ。とても立派。





 素敵な中庭もある。

 半分はスミソニアンアメリカ美術館が入っているのだが、それでもかなり広くてナショナルポートレイトギャラリーだけで最低二時間くらいはかかる。アメリカ史の人物画が中心で肖像画や写真を時代やテーマごとにまとめており、解説も美術的にどうこうというよりはこの人は何をしたどういう人で…という歴史的なものが中心。アメリカ史に疎い私にはよくわからないところも多い。
 戦火の馬っぽい絵。

 アイラ・オルドリッジ。

 ドガが書いたメアリ・カサット。

 南北戦争のテーマ展示。

 南北戦争後にアメリ憲法アフリカ系アメリカ人の選挙権を認めた修正第15条が加えられた時のポスター。

 女性の政治活動家たち。手前の像は選挙権を求めたスーザン・B・アンソニー、左後ろの絵はハリエット・ビーチャー・ストウ。

 同じくフェミニストのエリザベス・ケイディ・スタントン。

 文筆家たち。左からエマソン(像)、ポー、ホーソーンロングフェロー

 これ、なんとイーディス・ウォートン。

 シャーロット・パーキンス・ギルマン。


 ポカホンタスをはじめとしてネイティヴアメリカン肖像画も結構ある。



 こういうふうにマイノリティの肖像画資料が残っているのはなかなか貴重だし、とくにネイティヴアメリカン服飾の研究者とかにはとても嬉しいことだろうと思う。
 なぜかエリザベス一世

 アメリカ大統領全員の肖像画を展示するコーナー。正統派の肖像画も多いが、20世紀に入ってからの大統領はやや遊び心のある絵も展示されてる。
 クリントンがなぜかドットのようになっているのだが…

 ケネディ。なかなか個性がよく出てる気がする。

 これは父ブッシュらしい。こんな諷刺彫刻を飾るあたり、アメリカの美術館のセンスもなかなか面白い。

 次は20世紀のアメリカの肖像コーナー。こちらはフローレンス・ミルズ。 

 ユージン・オニール

 ジャネット・ゲイナー

 おそろしく特徴をよくとらえたメイ・ウエスト

 キャサリン・ヘップバーン

 1937年の『クレイドル・ウィル・ロック』のキャスト陣。

 ジェームズ・ボールドウィン

 いやいやいやいやこのバックミンスター・フラーはひどいだろ…たしかにそうなんだが…

 マリリン!

 ジョン・ウォーターズ

 グレイトフル・デッドとジェファーソン・エアプレインのポスター。

 ジャニス、ビッグ・ブラザー&ホールディング・カンパニー。

 ロバート・ラウシェンバーグの「サインズ」。

 コラージュって苦手なのだがこの作品は素晴らしいと思った。ラウシェンバーグはジャニスと同郷人(テキサス州ポートアーサー出身)で、ジャニスの夭逝にショックを受けて60年代を総括するためにこの作品を作ったらしい。たぶんハイアートぶらないでジャーナリズム的に世相を編集して見せること(もちろんそこにアーティストの主観が入るのだが)だけに徹しているところが気に入ったんだと思う。それでラウシェンバーグが「60年代は愛と恐怖と暴力に満ちた時代だった。忘れてしまうことが一番危険なんだ」とかなんとかいうコメントをつけてて、それがまたぐっときた。
 なぜか911のビルの遺構の一部が…

 特設展のポスター。

 正義のために戦った人々の肖像を展示する特集。

 W・E・B・デュボイス。

 バスボイコット運動で有名なローザ・パークス。ちょっとピンボケになってしまったがこれはとても気の利いた彫刻だと思う。パークスは顔が大きいのにそれをとらえようとしてる警官ふたりは顔がないというわかりやすい比喩。

 マリアン・アンダーソン。アフリカンアメリカンのクラシック歌手で、1930年代に「アメリカ独立戦争の娘たち」協会(DAR)に人種を理由にホールの使用を拒否され(人種隔離のない会場でアンダーソンが歌うことを拒んだらしい)、これに怒ったエリノア・ルーズベルトが別のところでコンサートを開けるよう尽力したなどという話があるらしい。

 メアリ・チャーチ・テレル。アフリカンアメリカで初めて大学の学位をとった女性の一人らしい。

 ジョージ・ワシントン・カーヴァー。奴隷として生まれ、植物学者としてアメリカの農業に多大な貢献をしたらしい。

 キング牧師

 ストークリー・カーマイケルとH・ラップ・ブラウン。SNCCやブラックパンサーの活動で大きな役割を果たした公民権運動家。

 …ファッションとかはすごい60年代っぽくてカッコいいと思う一方、活動家が武器を持った肖像写真を撮ってもらうとか日本で育った人にはちょっとよくわからないのだが、まあアメリカでは銃器に対する抵抗感が少ないのかもしれん。ロンドンでもパンクハースト母娘(さすがに武装はしてないが過激だった)がこういう展示に入ってるのを見たことあるしな。
 フレッド・コレマツ。全然知らなかったが、日系アメリカ人の権利侵害に反対する運動をしていた人らしい。

 この奥にブラックリストというまた別の展示がある。

 これは別に所謂ブラックリストを作るのではなく、現代アメリカのアフリカンアメリカンのWho's Whoを作るという企画で、たぶん資料的価値はかなり高いんじゃないかと思う。被写体になる人は映画スターから我々にはあまりなじみのないような企業のトップ、公職についている人なども。
 ウーピー。

 アル・シャープトン、60近い聖職者にしてはちょっとイケメンすぎないか…?まあ政治活動家で牧師様となるとご婦人方の支持がないと困るだろうし、気をつけて小綺麗にしているのだろうが。

 …本来はアル・シャープトン師よりだいぶ若くて敏腕ヒップホッププロデューサーであるウータン・クランのRZA(たしか敬虔で健康志向だったはずだ)のほうがカッコよくてしかるべきである気がするのだが、なんか働き過ぎみたいな感じで具合が悪そうである。

 一方80近いはずのメルヴィン・ヴァン・ピーブルズは元気である。この年でこんなにサスペンダーが似合うじいちゃんはめったにいない。

 スラッシュやコリン・パウエルの写真が入っているとことか面白い。アメリカとかイギリスで育ってないとたぶんスラッシュやパウエルがアフリカンアメリカンコミュニティの一員だということを知ってはいても普段はあまり意識しない気がするのだが(どちらもプロフェッショナルとして優秀だが、見た目の仕事ぶりだけだとアフリカンアメリカン文化に根ざした業績をたくさん残しているというわけではない気がするので)、こうやってコメントつきの写真で見るとああそうだったなぁという気がする。


 さらに奥にスターの写真の特集展示が。

 オーソン・ウェルズ

 エセル・ウォーターズ。

 ルシール・ボール。

 3階と4階の間にもまた特集展示が。スポーツと芸能の肖像画特集らしい。
 これはすごいな。このサイズと描き方は紛れもなく歴史画である。

 エルヴィス。

 ジョーン・バエズ

 エセル・マーマン。

 この絵、スカートのあたりとか芸が細かい。

 ポール・ロブソン。


 こんなわけで五時から七時までの二時間たっぷりつぶせた。演劇関係の肖像画多いのも嬉しい。タダだし!