電子図書の欠点は本気出して装丁できないこと!セントブライドライブラリーにて、魅惑のブックバインディングの世界入門

 今日は印刷・出版を専門とする珍しい研究図書館、セントブライドライブラリーを初めて訪問してジェニ・グレイによる講演"Designer Bookbinders: an Introduction to Contemporary Bookbinding"(デザイナー・ブックバインディングズ:現代装丁入門)をきいてきた。

 セントブライドライブラリーはブライドウェル座の上の階にある。このあたりは初期近代にはブライドウェル監獄という救貧監護院みたいなものがあったところ。

 講演の前にセントブライドライブラリーの印刷工房を見学。コースを受講すれば印刷を実際にやらせてもらえるらしいのだが、ちょっとお値段が高いしうちはぶきっちょだからなぁ…

 講演のほうは19世紀末のウィリアム・モリスあたりから現代のアーティストまで、イギリスにおける装丁の歴史と基本事項を一時間くらいで簡単に説明するというとても初心者向けのもの。私は装丁についてはかなり知識が乏しいのでとても役に立った。1955年にできたデザイナー・ブックバインディングズという協会が装丁の歴史の中では結構重要で、今でも活発に展示や啓蒙活動をやっているらしい。

 で、ここで気をつけないといけないのは英語でBookbindingsという場合、日本人が「装丁」という場合に想像する大量生産の本の表紙やカバーとかだけじゃなく、ある本を特別にアーティストが装丁する限定生産の豪華版とかあるいは特注一点モノとしての装丁も含まれ、この講演で扱われている "Bookbindings"とは基本的にそういう一点モノの高価でアーティスティックな装丁だということである(私が普段扱っている古い刊本とかも装丁は超豪華な一点モノが多い)。現代の優れた装丁ということでいろいろ写真を見せてもらったのだが、何冊ものシリーズ本をジグザグにくっつけて装丁するとか、普段は額に入れて飾っておくとか、書籍とは思えないようなすごいものが多い。とくにすごいと思ったのがフェイス・シャノンというブックバインディングアーティストの作品。

 ↓これがこうなる

 この目のイメージは大変な人気を博し、ハガキに印刷されたりするようになったらしい。恐るべしブックバインディング

 装丁する時は皮から石やらなんやらまでありとあらゆる材料を自分で加工するそうで、手先の器用さとデザインの能力両方が必要なまさに職人技って感じ。

 ものによってはタイトルが全然外からはわからなくなるくらい凝った装丁になるものもあるそうで、それは本末転倒ではないか…という質問もあったのだが、講演者いわくとにかく本の見た目がスゴければどんな本が気になるはずだからいいんだ、とのことだった。まあたしかにそうかも。

 そんなわけでブックバインディングの世界は奥が深いなぁと思ったのだが、やっぱり電子書籍の弱みっていうのはこういう凝ったフィジカルな装丁ができないことなんじゃないだろうかと思った。電子書籍iPadとか使って装丁するアーティストっていたりするのかなぁ…