バーミンガム街歩き(4)ウェルシュナショナルオペラ『ラ・ボエーム』

 バーミンガムの夜最後のお楽しみということで、バーミンガムヒッポドロム座でウェルシュナショナルオペラの『ラ・ボエーム』を見てきた。本当ならバーミンガムロイヤルバレエが見たかったけどあいにく公演がなかった。

 とりあえずは劇場のあるチャイニーズクォーターのほうに歩いていく。

 劇場の隣にナショナルトラストに登録されている労働者の住居があるのだが、ここは完全予約で学校ツアーとかじゃないと入れないみたい。

 とりあえず食事。バーミンガム名物バルティを頂く。

 トマトベースでコリアンダーがかかったカレーなのだが結構美味しい。たぶん南アジア料理店街で食べたほうが安いのだが、芝居を見る時間の関係でバルティトライアングルまで行けなかった。

 劇場内には衣装などの展示が。

 『ラ・ボエーム』は生で見たのは初めてだったのだが、高校の時ビデオで見て「ただの恋愛ものじゃん」と思った時に比べると格段に理解が深まった感じ。私が年をとったのかやっぱりオペラは生のほうがよくわかるに決まっているのか、ちょっとわからないのだが…

 演出は大変オーソドックスで、衣装もセットも古きよきパリという感じ。ライトモチーフの手法が使われているらしいのだが、ある種の「出ばやし」みたいにキャラクターの性格を表現してくれているので初心者でも大変わかりやすい。ひねらないでストレートに恋人同士の感情などを見せる演出なので、ミミとロドルフォが別れようと決めるところの抑えた表現とかは胸にくるものがあった。

 それで生で見てわかったことは二つある。まずこの話は単なるロマンティックな恋愛ものどころか実はけっこうネオリベ的(ネオコンではない)だということである。このオペラでは貧しいけどなんらかの資源(性的魅力、芸術の才能、機知など)を持っている人々がそれを市場で換金することが当然と見なされており、市場でサバイバルする技術が性道徳とか商道徳とかいうものに優先する。純情で薄幸で若干オリーヴ少女入った(ひとりで造花を作りながら夢を見ているとか…)ヒロインであるミミも肉食系美女のムゼッタも、自分の体を使ってバカなのに金だけは持っている男を捕まえて食べていくことに全然良心の呵責を感じていないし、男たちも嫉妬はするがそういうことが道徳的に悪いとは思っていないみたいだからである。ムゼッタに捕まるオッサンとかは完膚無きまでにバカにされる。19世紀のパリというのはなんか夢のような場所であるようだが、本当は肉食系もオリーヴ少女もためらいなく自分の魅力で金を稼ごうとする弱肉強食な場所なのである。

 もうひとつわかったのはムゼッタ超かっこいいということである。こういう男好きで陽気でわざと過剰に女らしく装っているfaux queen(にせクイーン、女のドラァグクイーン)みたいなキャラがいい人として出てくる古典作品は少ないと思うのだが、こういう浮気性だが友誼に篤い女性をうまく描くのはなかなか大変なのに、音楽がとてもこの人物造形によくあっていて大変楽しめた。ムゼッタのドラァグクイーン的なところが前面に出た「私が街を歩けば」は誰かバーレスクで使うべき(もう使ってる?)。

 今回はオーソドックスな演出を見たので、次回見るときはもっとぐちゃぐちゃにいじったのを見たいな…と思った。舞台をパリでなくするとか、時代を新しくするとか…この間のドン・ジョヴァンニみたいにゲイヴァージョンでもいいけど、ちょっと難しいかな。


 おまけ:なぜかシェイクスピアバーミンガムの街角。