RSC『リチャード三世』〜悪くはないけど伏線が…

 さて、バーミンガムからストラットフォード・アポン・エイヴォンに移動し学会出席。一日目の夜はスワン座でロイヤルシェイクスピアカンパニーの『リチャード三世』を見た。悪くはないのだが、最後のほうかなり演出がとっちらかってしまった感じ…

 セットや衣装は現代のものなのだが、どこと特定できるような感じではないので、何か政治的なアリュージョンがあるのかどうかはわからなかった…が、どうやら批評を見るとみんな結構わからなかったらしい。

 リチャード役のジョンジョ・オニールはすごくコミカルでパワフルなのだが、ちょっと親しみがありすぎ、毒舌コメディアンみたいであまり悪っぽくない。全体的に「この時代はみんな権謀術数を使いまくっていたよ!」みたいな感じの演出なので、リチャードだけが悪の魅力を発散している…ということにならないのである。王子を暗殺させて墓にテディベアを供えるところとかはうわぁーっと思ったが、たぶんここがなければただの狡猾な政治家で全然悪い人っていう感じにならなかっただろうと思う(そういうわけで王子殺しを受け入れられなかったバッキンガムとか超いい人に見える)。前半のリチャードがあまり悪い人に見えないので、後半自分の悪行に悩み苦しむところの演出が結構とっちらかっており、「毒舌コメディアンも所詮は弱い人…」みたいになっていっぺんにスケールが小さくなったと思う。悪夢を見たあと部下の腕にくずおれるところとか、ほんと付き人に泣きつくスタンダップコメディのスターみたいであまり国王らしくなかったなぁ…

 あととくに演出がとっちらかっていたのはヨーク公の扱い方である。最初、幼い王太子ヨーク公が対面するところでリチャードがヨーク公と遊ぶふりをして結構マジな目で首を絞める場面があるのだが(ここは凄味があり、リチャードが悪党に見えた数少ない場面)、ここはヨークが王太子以上に賢くリチャードにとって将来敵になるべき存在であり、だからこそ暗殺しないといけない、ということを示しているはずである。しかしながらなぜか王子暗殺と呼応するはずの悪夢の場面にはヨークが出てこない(王太子は出てくるし、他のメンバーも出てくる)。また最後リチャードはリッチモンドに絞殺されるという演出になっていて、絞殺される一瞬前にリチャードとリッチモンドの間を王太子が横切るのだが、前半の首しめ場面の伏線からしてここは当然王太子と一緒にヨークが通過すべきなのになぜヨーク出てこないの?なんか絞殺場面の伏線の回収があまりにもヘンなので、何か子役の規制でもあるのか、それともヨーク役の子役の具合でも悪かったのかと思ってしまった。あれはほんと何だったんだ?

 役者は頑張っていたし、王太子とヨークの死を女たちが嘆く場面や最後のリッチモンドの勝利宣言(原作だと言及だけの王妃エリザベスが登場、リッチモンドと情熱的なキスをする)の場面などは良かったので見ていて飽きるということはなかったのだが、やはり去年のケヴィン・スペイシー版と比べてしまうからなぁ…サム・メンデスが映画的な手法でケヴィン・スペイシーの存在感を十分に引き出したオールドヴィック版と比べるとどうしても見劣りしてしまうところがある。