グローブ座『ヘンリー五世』〜これが複合王国か…これがプロパガンダか…

 グローブ座で『ヘンリー五世』を見てきた。主演は2009年にヘンリー四世第一部・第二部でハル王子を演じたジェイミー・パーカーがそのまま引き継いで演じる(『ヘンリー四世』で王太子だったハルがこの芝居ではヘンリー五世になるので)。

 それでジェイミー・パーカーはとにかく良い。ヘンリー四世の時もカッコよかったが、この舞台では一回りでっかくなったような感じでいかにも王にふさわしい一方、面白いことを言ったり女の子の前ではちょっとどぎまぎするハンサムな若者でもあり、とても複雑でパワフルで魅力のあるヘンリー四世を作っていると思った。

 しかしながら最初のほうとかは結構つらかった…というのも、この芝居はヘンリー五世がフランスに攻め入ってアジャンクールで勝利するまでを描くという超単純なストーリーで、イギリス人でもフランス人でもないとそこまで話自体は面白くないのではという気がするのである。ここにフォルスタッフ死後のピストルやバードルフの暮らしぶりとかが差し挟まれるのだが、見ていて「いやこれって『アントニークレオパトラ』よりも話自体はないに等しいかもしれない」と思った(『アントニークレオパトラ』も話があまりなく、キャラクターの強烈さと価値観の複雑な揺れだけでつなぐ芝居だと思うのだが、『ヘンリー五世』もそうである)。

 あと前半のほうはすごくトーンが愛国的なのも若干怖かった。ヘンリー五世のアジ演説の場面とかでは平戸間で観客を兵卒に見立てて絶妙なレトリックでアジるので、ヘンリーが話し終わると大盛り上がりの地元のお客さんたちが「オオーッ!」と叫びながら手をあげて応答。『作者不詳』(あれはひどい映画だったが)の観客が煽られて外に繰り出す場面を思い出してしまい、「うわっこれがナショナリズムか」という感じで、演劇の持つプロパガンダとしての力を改めて確信。一方でスコットランドの統治に関する台詞が出てくるところでは後ろにいたスコットランド人と覚しき一団が激しくブーイングをしており、さすが最もブリテン諸島の政治に密着した芝居だけあって客の激しい感情を引き出すんだなぁと思った。

 後半は一転してこの盛り上がったナショナリズムの雰囲気を柔らかく諷刺するような展開になり、ヘンリー五世がお忍びでいろいろな兵士たちの意見を聞きに陣地を回る場面では戦争とか国家とかを問い直すような演出になる。戦場の惨禍に激しいショックを受ける王を演じるジェイミー・パーカーの演技もいっそう深みを増して、この王が単なるナショナリズムのヒーローではなく国際政治の暗部みたいなものを理解して王の役割を引き受けている複雑な人間であることがなんとなくわかるようになっている。最後のキャサリン王女への求婚場面では王の気取りを捨て、父親に隠れてかわいこちゃん口説きに励む青年になっており、そのあたりの緩急の付け方も良い。ただやっぱりこれはジェイミー・パーカーの演技の上手さのおかげだろうなぁ…もうちょっと下手な役者がやると単なるつまらないヒーローになってしまうのではという気がする。

 そんなわけで前半は怖かったのだが後半はどんどん引き込まれて良い芝居だった。ジェイミー・パーカーにはもっといろんなシェイクスピアの役やってほしい!