RSCロンドン公演難破三部作(1)『間違いの喜劇』〜視覚的効果に頼りすぎ、台詞がおろそか

 RSCロンドン公演難破三部作二本目ということで『間違いの喜劇』を見てきた。パレスチナ出身のアミール・ニザル・ズアビ(ちょっと発音は自信がない)演出。

 とりあえず全体的にえらい暴力的なプロダクションである。セットは現代(主に貨物港みたいなところ)で、いきなりイジオン(アンティフォラス兄弟の父)が水槽に顔を突っ込まれる拷問を受けている場面から始まる(難破三部作ということで水攻めのモチーフは全体にたくさん使われており、エイドリアーナがルチアナにこの水攻めをしたりする場面もある)。この芝居のエフェソスは冷酷な公爵が支配する全体主義国家で、秘密警察みたいな人々が偵察しては犯罪者をその場で殺したする一方、市場ではあやしい密輸品が売りさばかれていたりしてとにかく危険なにおいがするところである。シラクサのアンティフォラスとドローミオも不法移民として貨物箱にぎゅうぎゅうに詰め込まれてエフェソスにやってくる(シラクサとエフェソスは敵対しているという設定なのでこれはいいと思う)。あとアンティフォラスが電気ショック治療を強制的に受けさせられたりする。

 セットをうまく使った演出にはいいところもある。吊り物の使い方がたいへん凝っていて、劇場上にレールを設置し、そこからあずまやをつり下げてエイドリアーナとルチアナがそのあずまやに乗って空中から登場し、退場も空中に消えるというところはなかなか視覚的にインパクトがある。あと処刑寸前のイジオンもこのレールにつり下げで登場する。

 アンティフォラス兄弟とドローミオ兄弟の演技はおおむね良く、とくにドローミオ兄弟は台詞回しとかがそっくりで顔が違うのに衣装と演技だけでかなり双子っぽくして取り違えに説得力を持たせており、おおこういうのが私が見たいドローミオ兄弟だ!と感心してしまった。似ていない2人が演技の力でそっくりであるように見えてくる、とかいうところがこういう取り違え芝居の醍醐味だよね。

 ただ、全体としてはこういう視覚的効果の強烈さが先行してしまい、台詞が大事にされてないような印象を受け、結果として何を言いたいのかよくわからんプロダクションになってしまったのではないかと思う。最初からえらい台詞が速いな、ノンネイティヴにはきついな、と思っていたのだが、ネイティヴのレビュアーも皆台詞が速すぎてワケがわからなかったと書いているので(こことかこことかこことか)、たぶんみんな台詞をちゃんと味わえなくて不満だったのだろうと思う。もう少し台詞をきちんときかせるようにするかわりに休憩をなくせばよりスピーディで緊張感の持続した舞台になったのではないかと思うのだが…休憩があったせいでちょっとたるんでしまったのだが、第二部はあいかわらずすぐ速すぎる台詞の洪水に戻ってしまったのでなんか見ていて疲れた。

 まあ『間違いの喜劇』はビートルズでいうと「ラヴ・ミー・ドゥ」みたいなもんで、後々発展する萌芽とか若書きの愛らしさはあってもそれ自体としてはそこまで面白くはない芝居なので(いくらいいところがあっても『ハムレット』や『十二夜』みたいな演目や『サージェント・ペパー』収録曲に比べれば完成度は劣りすぎ)、演出が難しいのはわかるのだが、同じ荒っぽい感じの演出ということではこの間見たナショナルシアター版のほうが成功していると思った。あっちはもっと夫婦や親子の情を前面に出していて、暴力的な場面、ドタバタ喜劇、感動的な場面のメリハリがはっきりしていたし。