マーク・ライランス主演、グローブ座『リチャード三世』

 グローブ座でマーク・ライランス主演のオールメール版『リチャード三世』を見てきた。とにかく暑くて芝居を見る環境としては最悪だった…がまあなんとか。

 ライランス(前のグローブ座の芸術監督)のリチャード三世はケヴィン・スペイシーやジョンジョ・オニールのエネルギッシュなリチャードとはだいぶ違っており、物静かで自分のすることに疑問を抱いているような感じの年配のオッサンで、面白さも意図的にコミカルに動き回るとかよりはデッドパンというかあまり表情なく何食わぬことを言う…みたいなところにある。リチャードがアンを口説き落とすところはお客さんが「本当にできるんだろうか」と思うくらい自信がない感じでかなりスリリングだった…すごい個性的で最初は戸惑ったが慣れるとすごくいいと思った。

 演出は非常にエリザベス朝っぽいもので、オールメールということで女役は全員男性がエリザベス朝ふうの女性のドレスに身を包んで演じるし(全員結構良かったと思う。とくにアン役のジョニー・フリンとか大変ナチュラルな感じだった)。あと、リチャードを王にする場面ではエキストラを出さず、グローブに集まった観客をロンドン市民に見立てて"God Save King Richard!"とか叫ばせたりする(うちも言った)。たぶんグローブの構造からしてイギリス・ルネサンスのお客さんたちも役者にのせられてこのセリフを言わされたのでは…とも思うので、なかなか古風でいい感じだった。

 ただ、問題はマーガレットをカットしたところ。マーガレットはよくカットされる役なのだが、この役は本来は『リチャード三世』でも大変重要で、女性の怨念の力とか薔薇戦争の歴史を体現するという象徴的意味合いもある一方、リチャードを含めた王族たちの血まみれの人生を観客に対して印象づけるというプラクティカルな意味もある役であるはずである。ところがマーガレットが出て来てエリザベス王妃とかに呪いを教える場面がないので、リチャードのワルさがあまり際立たなくなってしまうというか…女役たちがかなりエネルギッシュにリチャードを罵ったりするのだがちょっとリチャードが見た目物静かなオッサンすぎてなんでそんなに女どもに評判が悪いのかよくわからないんだけど、ここでマーガレットがエリザベスに呪いを教える場面を残しておけば子供殺しの悪がもうちょっと強調されてリチャードのワルさが引き立ったのではと思う。