トム・クルーズが…トム・クルーズが…まあそれはいいとしてティッパー・ゴアへのディスが〜映画版『ロック・オヴ・エイジズ』(Rock of Ages)※若干ネタバレと下品な表現あり

 映画版『ロック・オヴ・エイジズ』(Rock of Ages)を見てきた。

 とりあえず舞台版があまりにもひどかったのだが、驚いたことに私がスクリプトに問題あると思った箇所はほとんど改善されててだいぶマシになっていた。とりあえずオチが違うのが最大の改善点。あとストリップクラブの描写とかあまり偏見ない感じになっており、バーリーポール(男性ポールも見られる!)をけっこうきちんとちゃんと撮っているあたりも視覚的効果によく配慮してる。あとデニス(アレック・ボールドウィン)とロニー(ラッセル・ブランド)の同性愛もけっこうちゃんと伏線が張られてて「ホモソーシャルのはずが実は同性愛だった」感が強くなり、そんなに唐突に同性愛ネタで笑いをとる感じにはなってない(まだちょっと不足があるとは思うが、少なくとも最初のほうでこの2人がレズビアンアイコンであるジョーン・ジェットの「アイ・ラヴ・ロックンロール」をデュエットするところでまあわかる人には「ああ…」って感じだよな)。それでもまあ新鮮味も工夫も気の利いた台詞も全然ないどうってことない話なのだが、あの保守的道徳観が炸裂しまくるはっきり言ってムカつく舞台版の脚本に比べると全然ふつうの「可もなく不可もないロックファン同士のボーイミーツガール話」になっていて、まあそこは褒めてあげようと思う(たぶん舞台に来る層と映画に来る層って明白に違うから、ああいう悪い意味でミドルクラス臭が炸裂するストーリーでは客を呼べないと思ったんだろうな)。

 主演の2人ははっきり言って全然ダメである。シェリー役のジュリアン・ハフはダンサーらしいのだが、なんであんなんロックファン役にキャスティングしたんだ…っていうレベル(歌が下手というわけではないが全然ロックファンに見えない)。ドリュー役のほうのディエゴ・ボネタはラテン音楽の歌手らしいので歌のほうはハフよりマシだが、ロックミュージシャンの役なのにすごい育ちが良さそうな感じで色気が欠けてる(ヒスパニックのシンガーならリッチー・ヴァレンスリッキー・マーティンみたいにセクシーじゃないと!というのは偏見だろうが、ロック歌手がセクシーじゃなくて一体どうするんだ)。この2人が歌うところはロックっていうか『ハイスクール・ミュージカル』か、まあよくてもせいぜい『グリー』だろ(全体的にマッシュアップの編集とかは『グリー』の影響が強いが、『グリー』のほうがだいぶとがっている)。

 助演のほうはまあ悪くはない。ラッセル・ブランドアレック・ボールドウィンはコミカルだし、メアリー・J・ブライジは頼れる姉御らしく存在感があって歌ももちろん上手だ。あとパトリシア役のキャサリン・ゼタ=ジョーンズの「お堅い人妻のフリをしているセクシー熟女」ぶりが個人的には実に好みで、最初から「ティッパー・ゴアみたいだな」と思っていたのだが、最後のほうで"We're not Gonna Take It"を矯風婦人会みたいなのを引き連れて歌うところは明らかにティッパー・ゴアへのディスだよね…?『メタル:ヘッドバンガーズ・ジャーニー 』を見た方はおわかりだと思うのだが、ティッパー・ゴアは元デッドヘッド(グレイトフル・デッドのファン)らしいのに80年代に音楽の猥褻な歌詞狩りに血道を上げ、トゥイステッド・シスターのこの曲をとりわけ攻撃しまくっていたのである。この直後にパトリシアは実は若い頃グルーピーだったというのが暴露されるのだが、「元グルーピー→矯風婦人会」ってそれティッパー・ゴアに決まってるよね?


 いや、まあでもそんなことはどうでもいいのある。くだらんストーリーとか主演2人がガキだとかどうでもいい。この映画はともかくトム・クルーズのためにある。
 ↓トムが歌ったデフ・レパードの"Pour Some Sugar on Me"

 トム・クルーズはステイシー・ジャックスというロックスターの役で、ステージペルソナとしてはアクセル・ローズを基本にジム・モリソン、イギー・ポップキース・リチャーズスティーヴン・タイラーマイケル・ジャクソンをちょっとずつ加味した感じで、何を考えてるのかわからない不安定な凄味といい色気といい酒と女に溺れて精神的にボロボロの生活の中でも独特のイノセンスを保っている感じといい、まさに「みんなが考える80年代のハードロック界のスーパースター」の理想形である(いや、「私が考える」なのかもしれんが)。アクセル・ローズがロック史上最も素晴らしい男性シンガーだと思っている私はこれだけでもう相当ツボまっしぐらなわけだが、もう出て来た瞬間からなんかまあ明らかにヤバい。泥酔してプールに落ちるだけの短い場面なのにもう「あああああーっっっ!!」っていう感じでトムの完璧な台詞回しと色気に釘付け。いやあカリスマっていうのはこういうもんですな…あのトム・クルーズを生で見たらうち失神する自信ある。ちなみにステイシー・ジャックスをめぐるあらすじは舞台版より明らかに深みが増してよくなっており、ステイシーと絡むローリング・ストーンの記者コンスタンスを演じているマリン・アッカーマンの「知性あふるる女性ロックファン」ぶりもなかなか良いのでもうはっきり言って主筋のガキどもの恋愛とかどーでもよくなった。ただ、映画版は舞台版と違ってステイシーとシェリーがセックスしないのだが、その理由についてあとでシェリーがドリューに「私はあなたと付き合ってたからそんなことしない」と言う場面はこれほど説得力のないセリフも珍しいと思ったな…あんだけセクシーなロックスターなら夫がいようが子供がいようがやるだろ!絶対にやるよな!(←下品な表現をお詫びします)まあ欲を言えば声があまり嗄れてなくて80年代ロックにしてはストレートな歌い方なのが物足りないかもしれないし(80年代のハードロックの所謂「エロ声」男性ロックスターってアクセルにしてもジョン・ボン・ジョヴィにしてもハスキーな声が特徴でしょ)、同じバンドがジャーニーとデフ・レパードボン・ジョヴィとガンズ&ローゼズの曲を歌うってそれバンドのコンセプトとしてどうなの、っていうのもあるのだが、あんだけ色気があればもういいよそれは。

 まあそういうわけで、映画自体はあまりいいところがないが、トム・クルーズが演じたステイシー・ジャックスはトッド・ヘインズが1998年に撮った『ベルベット・ゴールドマイン』に出てくるブライアン・スレイド(JRM)とカート・ワイルド(ユアン・マクレガー)以来の映画に出てくるちゃんとロックスターらしいロックスターだと思いますよ。とにかくトム・クルーズを見るためだけに金払う価値があるわ。あんまりお客さんはいなかったのだが、前に座っていたカップルの女のほうもやっぱりすっかりトム・クルーズの色気にやられて呆然としてたな…