エディンバラフリンジ(2)「ストリップサーチ」(Strip Search)〜同性愛をテーマにモノローグとストリップティーズを組み合わせた非常に政治的な重い演目

 さて、時差ボケ気味なのもあってショーはひとつでやめとこうと思った…のだが、フリンジに沸き立つロイヤルマイルに足を踏み入れるとちょっとよくわからない脳内物質が湧いてきてもうひとつショーはしごしてしまった。二本目は「ストリップサーチ」(Strip Search)。

 「ストリップサーチ」というタイトルはダブルミーニングである。この二語で「服を脱がせて武器とかを持っていないか調べる」ことを指すのだが、もちろんストリップティーズのストリップとひっかけている。作者はピーター・スコット=プレスランド、主演(というかこれは一人芝居)はダモラ・オナデコ。モノローグとストリップティーズ(明らかにゲイ向け)を組み合わせて元軍人のゲイの青年の人生を語る、というものである。

 で、モノローグで「サーチ」だから『コーラスライン』みたいな内面探究ものかと思ったらかなり猛烈な政府批判もので結構びっくりした。アフリカンのゲイの若者が虐待を受けたり売春をしたり苦労しながら大人になって、ボーイフレンドと一緒に軍隊に入るが彼はイラクで負傷。除隊した時にほとんど年金が出なかったため、主人公はボーイフレンドを養うためストリッパーになるのだが、ある日家に帰ってみると連れ合いは死んでいた…というものすごく悲惨な物語である(←すいません、ここのあらすじ最初は「強盗に殺された」って書いてたんですが、チラシの手書きメモ見直したらrobberじゃなくgovern.だった…修正しました)。このあらすじだとドロドロのメロドラマにもなりそうなのだが、全体的に「自分に何もしてくれない政府に尽くす義務はない」という怒りに満ちており、トーンは非常に政治的である(反サッチャーでもあり、反ブレアでもある)。最後はユニオンジャックをまとったオナデコがかなり直接的に政府を批判する台詞を口にして終わりになる。

 で、これをただモノローグで話すだけじゃなく、ちょっとずつ音楽に合わせて服を脱ぐルーティンをやりながら話すというのがこの話の工夫である。オナデコはえらくダンスがうまくて大変セクシーでもあるのだがすごいマッチョな軍人体型で、そういう人がものすごく小出しにしながらちょっとずつぶつ切りの音楽に合わせて(かなり露骨な身振りで)脱いでいくところがなぜか爆笑を誘ってしまい、茶目っ気のあるオナデコの表情ともあいまってダンスのセクションがすごいコミカルに見える(振り付け自体は相当過激で扇情的なのだが)。そのせいで深刻なモノローグ(たまにジョークも入ったりするのだが)とのメリハリがすごく利いた構成になっており、踊りが終わっていっぺん照明が落ちてまた明るくなるとお茶目顔から一転深刻な顔のオナデコが立って真剣に話し出す…というのが繰り返されるのでトーンの変化がものすごい。モノローグのセクションの悲劇性がコミカルなダンスとの対比で非常に強く感じられるので、最後のボーイフレンドが死んでしまうくだりはほんと聞いてるほうが相当つらかった。
 
 「服を脱ぐ」ことと「内面の吐露」とか「虚飾をはぎとる」ことを重ね合わせるのはまあバーレスクには非常によくある表現なんで全然珍しくはないのだが、オナデコは踊りも演技も非常に上手だったのでこの表現のありがちさはあまり気にならなかった。とくに台詞回しが自然で聞き手を引き込むのがうまいので、きいているほうもつらい体験を追体験してしまうようでなかなか心にくるところがあった(虐待などの経験がある人はいかないほうがいいかも。フラッシュバックあるかもしれん)。

 劇場で配られたチラシによると、作者のスコット=プレスランドはフォークランド紛争の時にロンドンのゲイコミュニティがいきなり愛国的になったのを見て以来、政府はゲイの人権を全然守ってくれないのになんでゲイがみんなこんなに国家に尽くすんだろう、と思ってそれ以来こういう話を書きたいと考えていたらしい(フリンジ初演は去年らしい)。そう考えるとこれって実は報われない愛(対象が国家だが)の話でもあるし、社会への過剰な同化によって体制に認められようとする動きをやんわりと諷刺する話でもあると思う。考えれば考えるほど重い話だな…今まで見たバーレスクの演目の中でも踊りの過激さ、話の重さともにトップクラスで良い演目だけど疲れるし人を選びそう。

 ちなみに使われてる曲は明るくセクシーなものが多いのだが、要所要所でクリスティーナ・アギレラの'Fighter'が流れるところが深刻な雰囲気を増大させている。