John Brewer, The Pleasures of the Imagination(ジョン・ブルーワー『想像力の快楽』)←これは18世紀のことをやる人は必読です

 ふだんうちは三年以内に刊行された本のみブログで書評することにしていて、読書記録は主に自分用として読書メーターにつけているのだが、id:nikubetaがかねがね「ブログに読んだ研究書の感想をメモしてシェアする」ことを提案しているので、うちも博論を書き上げるにあたってきちんと通読した本は簡単に内容だけメモしていこうかと思う。

 とりあえず、以前からぼちぼち拾い読みしていたのだが一昨日やっと全部通読したJohn Brewer, The Pleasures of the Imagination(London: HarperCollins, 1997)。これは超有名著作なので既に読んだ人もたくさんいるのではと思う。

 たぶんこれは18世紀英国文化史の著作としては基本書と言ってもいいようなもので、18世紀英国において楽しみのための活動としての芸術と商業活動が前の時代にはなかったような大きな規模で結びついてめざましい発展をとげていく様子を包括的に論じたものである。演劇や読書、絵画などパッと思い浮かぶような文化コンテンツはたいてい論じられており、地方における文化活動や女性の文化活動などについても豊富な一次史料を用意し丁寧に論じている。学者から一般の読者まで読めるように配慮した、と序文にあるように注が少なく語り口も割合流れるような感じなのだが、とにかく鈍器として使用できそうなくらい厚い(700ページ以上ある)のに著者のブルーワーは「主な文化活動しかとりあげられなかったので包括的なものは目指してない、水彩とかダンスが手薄になってしまった」と謙遜しており、まあ18世紀ヤバい。

 それで、この本は「快楽」(pleasures)を大きなキーワードとして、18世紀においてそれがどうやってハイカルチャーとそうでないものに差異化されるか(distinctionをつくるか)というテーマを扱っており、その点では感心はフランスのピエール・ブルデューなどにも似たところがあると思うのだが、差異化に理論で説明を与えるよりはむしろ文化現象をとにかくきちんと拾って記述・分析し、そこから傾向を抽出して一般読者にもわかりやすいよう説明するほうに力を注いでいると思う(理論的な分析が全くないわけではないが)。私が好きなヘンリー・ジェンキンズなんかもそうだが、英語圏の文化史やメディア史の研究者ってこういう「とにかく文化現象を虚心坦懐に収集して詳細に記述・分析し、どの分野の研究者でも読めるような論考にまとめる」ほうに特化した人が結構いて、そういう人はモデルや理論を適用するほうは得意な他の研究者にまかせる、ということが多いと思うのだが、こういう役割分担は非常に適切だし必要なことだろうと思う。